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第一章 スイ
「ッ!」
青年が目を覚ます。薄紅色の瞳が瞬きを繰り返し、深緑色の一本に束ねられた髪が揺れる。
彼の名は『スイ』
(またか・・・)
どうにかならないものだろうか、もう十五年もこの悪夢に悩まされている。彼の朝はこの悪夢に起こされる。スイはベッドから起き上がり、洗面台へ向かい顔を洗った。やっと気持ちが落ち着くと、いつものように窓へ近づき外を見た。
「もうこんな時間だ・・・そろそろ出かけなければ」
前日『リア』という女性から依頼を受けていた。内容はまだ聞いてないが約束した以上、彼女の元へ行かなければならない。軽い朝食を済ませ、家を後にし、彼女の元へ向かう。
ここは、山奥にある小さな集落。食糧は広々とした畑で育てられ、水は近くに流れる大きな河から汲まれ、村人達の小さな家々が立ち並ぶ。
スイは、村の人々から依頼を受け、それをこなし収入を得て、生活している。
彼は村の皆を家族のように愛し、よく人助けをしている。その為周囲からも慕われている。
もうすぐで依頼主の家に着く。スイの家からはそう遠くないので少々遅く出てもいいくらいだ。だがスイは時間を守って動き、有言実行する、そういう堅実な心の持ち主なのだろう。
その頃、依頼主はスイが来る前に何やらいそいそと準備をしていた。どうやら彼に渡したい物があるらしい。
「この部屋、殺風景だわ。んー・・・あ、花を置きましょう!後はどうしようかしら~♪」
楽しげに準備をしている彼女の名は『リア』
月光色に咲く白い花を透明な花瓶に入れて机に置き、沸かしていた湯をガラスのポットに注ぎ茶葉を入れる。ついでに洋菓子も用意する。彼に長居してもらうつもりなのだろう。
そうこうしているうちに『コン、コン、コン』と、ノックする音がした、彼が来たのだ。
「こんにちは!リアさんいらっしゃいますか?」
「はーい、今行きます!」
ドアを開け、リアは元気な声でスイを迎えた。
「いらっしゃい!スイ、待ってたよ」
「リアさん、お邪魔します」
「今日も来るのが早いわね」
「いえ、そんなことないですよ」スイは笑顔で言った。
「笑顔が素敵な人はいいわね、見ていて気持ちがいいわ!そうそう、ちょっと家でゆっくりしていかない?お茶も淹れたのだけど、どうかしら?」
スイは誘いを受け入れるか迷ったが、遠慮することにした。こういうのには慣れてないのだ。
「いえいえ、僕に構わなくていいですよ。長居なんて申し訳ないです」
「そんなこと言わないで、さぁ上がって上がって!」
そう言うと、リアは強引にスイを家に入れた。彼に今日どうしても言いたいことがあるのだ。
「紅茶をどうぞ」リアは茶菓子と一緒に紅茶を差し出した。
「ありがとうございます、ゴク・・・美味しいです」
リアは微笑み、そして話を切りだした。
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