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第二章 リア
「もう少し、もう少しで・・・フフッ、アハハハハハハハ!」
高い声で笑う女が一人いた。
「あぁ、スイ。私の愛しい人!この私、リアだけのモノよ!」
リアは自分が気に入った者を独占したいと強く思う人物だった。
「明日もスイが私の家に来るわ。嬉しい、とても嬉しい!もう何処にも行かないで、私の傍から離れないでいて・・・」
リアはこの言葉を毎日必ず一回は呪文のように唱えている、スイを自分のモノにするために。言葉は自分の身の周りの環境を変える力を持つとされている、魔法だ。
この世界には魔法とされる物がいくつかあるが、その中でも『言葉』は強力な魔法である。
リアは何としてもスイを自分のモノにしたいのだろう。彼女がそう思うようになったきっかけは、今から遡ること十五年前、スイが十歳の時だ。
彼は母親を流行り病で亡くし、父親と石で作られた小さな家で二人暮らしをしていた。父親はこの村で医者として働いていたらしく、いつも家に居ることがなかった。そのためスイは一人家で本を読むか、絵を描くかして過ごしていた。
そんなある日、散歩がしたくなったのか、スイは家の近くで散歩をしていた。歩いていると道端に咲いた月光色の綺麗な花を見つけた。
「きれいなはなだな~」
スイが摘もうとすると
「だめだよ」
と声がした。振り返ってみると自分より三つ年上だろう女の子がこちらを見ていた。
「そのはなにちかづかないで!それはわたしがさきにみつけたんだから」
「ご、ごめんなさい。きれいだったからもってかえっておとうさんにあげようとおもって・・・」
すると女の子は膨らませていた頬を元に戻し、スイに近づいてきた。
「あなた、おとうさんがいるの?もしかしておいしゃさん?」
「そうだよ、なんでわかったの?」
「ん~、なんかおくすりみたいなにおいがするから」
「え、ぼく、そんなにおいするの?」
「ちょっとだけ、フワって、においがするよ~」
「そうなんだ・・・」
スイは自分についた匂いを確かめるため、服の裾を引っ張って鼻に近づけてみた。
「なにもにおいがしないよ?」
女の子は首を横に振った。
「ううん、にがいにおいがする~」
そう言ってクスクスと笑う。
「きみ、なんていうなまえなの?」
スイが聞くと女の子はニッコリ微笑んで言った。
「リアだよ、あなたはなんていうなまえなの?」
スイは恥ずかしそうに顔を赤らめて言った。
「・・・スイ、です」
「スイね。わたし、これからあなたとおはなししたいわ!」
「ぼ、ぼくもおはなししたいな・・・リア」
「じゃあ、あたしたち、おともだちだね」
「うん、そうだね」
「よろしく、スイ!」
「よ、よろしく・・・リア」
「じゃあ、おともだちになったしるしに、これ、あげる!」
そう言ってリアが差し出したのは、月光色に輝く、あの花だった。
「え、いいの?このはな、リアがみつけたのに・・・」
「うん、いいよ。スイにあげる!おうちにもってかえって、おとうさんにあげてね」
「う、うん!ありがとう、リア。ぼく、おとうさんにあげるね。じゃあ、またね」
「うん、またね!わたし、いつでもまってるよ」
そう言うと、スイとリアはそれぞれの家に帰っていきました。
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