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そんなある日、珍しくあの少女が家にやってきた。
「こんにちは!スイ、いる?」
リアの声が聞こえ、スイはゆっくりと扉を開けた。
「こんにちは・・・リアちゃん」
「スイったら、ちっともあそびにきてくれないから、わたしからきちゃった!」
「ごめんね。ぼく、ちょっとそとにでるげんきがなくて・・・」
「どうしたの?スイ、なにかあったの?」
リアに悩み事を相談しようか迷ったが、心配をかけたくなかったので言わない事にした。
「ううん、たいしたことじゃないから、だいじょうぶだよ。ありがとう、リア」
そう言ってスイはにっこりと微笑んだ。
「そうなの?それならいいけど・・・」
リアは、スイが他人には言えない隠し事をしていることがわかっていた。彼に嫌な思いをさせたくなかったので、自分から言い出すのを待つことにした。
「スイはさいきん、おうちでなにしてるの?」
リアの問いにちょっと困ったが、何とかごまかすようにスイは言う。
「えっと・・・ほんをよんだり、はなをながめたり、えをかいたりしているよ」
「そうなのね~、たのしい?」
更に困る事を問われてしまう、実際にしていないことなのだから。
「うん・・・タノシイヨ」
嘘を隠しきれてないことに流石に自分でも気づいているが、リアは
「そうなんだ」と一言いっただけだで、後は何も聞いて来ようとしなかった。もしかして、僕が父親を恐れているということをわかっているのだろうか?・・・と思い込んでしまう。
「ねぇ、わたしきょうはもうかえるわ!ようじをおもいだしたの。スイにあえてよかったわ。またくるわね」
そういうと、リアは玄関へと向かい、扉を開けて外に出ようとした。
「まって・・・」
スイはリアの左手首を掴んでひきとめた、不安な気持ちで心が耐え切れなくなっていたのだ。リアが振り返ると、スイの目には涙が今にも零れそうな程、溜まっていた。
「リア、じつはね、ぼく、おとうさんが・・・・・」
そこまで言うと言葉を止めた。リアに心配をかけないつもりだったのに、つい口にしてしまったからだ。視線を足元まで落としてしまう。ここまで言うと、もう後に引き下がることは難しい・・・。暫く俯いていたが、覚悟を決め、見上げるとリアは真剣な表情でこちらを見てくれていた。
スイはリアに全て話した。
「リア、ぼくのおとうさん、どんなひとにみえる?」
「う~ん、いつもやさしくほほえんでいて、いろんなびょうきと、けがをなおしてくれるから、わたしにはとってもいいひとにみえるよ」
「ぼくもそうおもってた!だけどね・・このあいだ、ぼくなんかにしんぱいされるいみなんか、ないっていわれたんだ。そのときのおとうさん、すごくぼくのこと、いやそうにみてたんだ・・・。それとあとね、
『あのおんながいれば、あいつからときはなたれる』
っていってたんだ。『あいつ』っていうのは・・・ぼくのことなんだとおもうんだ。もしかしたら・・・・・ぼく、おとうさんからみすてられるんじゃ、ないかなって、お、おもって・・・・ぼ・・・ぼく、こわいんだぁっ!
うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーー!」
スイは怒りと悲しみが交わった感情に襲われる。形相を変え、周りの物という物を蹴散らした。
その姿はまるで悪魔がスイの身体にとり憑いたようだった。
リアはあまりの驚きに、口に手を当てて動けずにいた。しかし、その口には笑みがしっかりと浮かんでいた。
(あぁ、なんて美しいの!こんなにも嘆き悲しんで、苦しみ足掻いて・・・)
「ッ!あ、スイ、スイ!」
リアは冷静にさせる為、スイの名を呼び、何とか力づくで暴れるスイの身体を封じる。
「スイ、スイッ!わたし、リアをみて!!」
やっと我に返ったスイは、漠然とし、リアを見た。
「ぼくは・・・・・・・・・・・・・・」
溢れ出る涙は止まることなく、流れ続けている。そんなスイを見てリアはこう言った。
「わたしもね、こういうことをいわれていきてきたのよ。あなたひとりだけじゃないから、わたしがスイをまもるわ」
「くっ、ううぅ、うあああぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーー!!!!!」
リアの腕の中で、スイは嗚咽をあげた。彼がこうして誰かの腕の中で泣く事は今日が初めてだった。
「ありがとう。・・・リア」
「ううん、いいんだよ。もう、おちついた?」
「うん。もうだいじょうぶだよ」
「なら、よかった。じゃあ、またあした!」
「うん!またあしたね」
リアは家に帰っていった。彼女の背中が見えなくなるまで見送った。
この時、スイにはリアに対する信頼が芽生えていた。
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