面倒な人たち

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「ねえ、覚えてる?」 「何が?」  夕食時、突然何の脈絡もなく言われた妻の裕美の言葉にそっけなく返事をすると、裕美は明らかに残念そうな表情を浮かべる。 「分からないならいいよ。大したことじゃないから」  そう言って無言で箸を持ったけど、言いたいことがあるならはっきり言えば良くない? いきなり覚えてるって言われてもさ、何のことなのか言ってくれないと分からないんだけど。  どうせ俺が「何のことなのか教えてよ」って言うの待ってんだろ? 最初から何のことなのか言ってくれたらいいのに。面倒くさすぎ。 「分かった」  いつもいつも俺が機嫌をとるわけじゃないからな。それで話を終わらせたのに、裕美は何か言いたそうな顔でじっと俺を見つめてくる。  あ〜、ほら、絶対面倒くさいやつじゃん。  結局俺が聞き出すまで機嫌損ねてさ、気まずくなるいつものアレだろ?  夕食の間中ずっと裕美からの圧を感じたけど、無視して無言で飯を食べ、食べ終わった二人分の食器を持ってキッチンに立つ。 「ねえ、本当に覚えてないの?」 「だから、何が? 皿洗いなら今やってるし、風呂も洗っといたよ。家事当番なら忘れてない」  自分から大したことじゃないって言ったくせに、何なんだよ。忍び寄るように近づいてきて声をかけてきた裕美にイラッとして、彼女の方を見ないで答える。 「そうじゃなくて〜……」 「何?」 「……やっぱりいいや」  散々思わせぶりなことを言っておいて、結局裕美は何も言わずにどこかに行ってしまった。普段はしっかりしてるのに、たまに面倒なとこあるよな。裕美とは中学からの同級生で長い付き合いだけど、昔からこういう面倒なとこは変わってない。  それからも寝るまでの間裕美が俺の様子をチラチラと伺っているのには気づいてたけど、あえて何も触れなかった。  言いたいことがあるなら、はっきり言えばいいと思うよ。裕美から話してくるまでは、俺は絶対に聞かないからな。
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