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「ちょっと待て」
しかし、逃亡の夢は儚く散った。
というか、逃げられるわけもなかった。待て、と、俺の肩に食い込んでくる指の圧を感じてしまえば。振り向いて、綺麗な黒瞳の中に俺しか映ってないことを確認してしまえば。
「はいっ」
ソッコー頷いて、その隣に再びぺたんと腰をおろしてしまうのが、武田慎吾。俺だ。
「麦茶は後でいい。それよりも、一枚しか撮影してないじゃないか。ついでだから、もう少し撮るか?」
「へっ?」
「お前の顔を見て気が緩んだせいか、うっかり居眠りしてたが、もう目は冴えた。遠慮なく、もっと密着していいぞ。『ラブラブ』がいいんだろ?」
え? 盗撮のこと怒ってないの? マジ?
「もっと寄れ。こういう時は頬を寄せ合うものじゃないのか?」
怒ってないどころか、スマホの画面をさっとカメラに切り替えてツーショ自撮りの体勢に入ってくれちゃってますが。俺、どうしたらいいん?
ベストアングルを淡々と模索してるお前の無表情の中には、照れとかノリノリモードとかの要素は微塵も感じ取れないんだけど。
「こういうの初めてだから、ちょっと緊張するな。でも、お前とのツーショット画像は俺も欲しい」
緊張してるなんて全然伝わってこない涼しげな表情から零れる甘い声音が、俺の恋心をグラグラと揺さぶってくるんだよ。どうしたらいいん?
こういうの初めて、だってさ! つまり、土岐も俺が〝初めての相手〟ってことじゃん? ぎゃー、堪んない!
「撮るぞ」
「う、うん」
取り敢えず、望まれてるなら全力で応えなきゃだよな? かく言う俺も、土岐とのラブラブツーショ画像、めっちゃ欲しいし!
——カシャッ
チョー照れるけど、ほっぺ寄せ寄せラブラブツーショ。撮ってやったぜ!
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