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「——今、どこにいる?」
「えっ? 家! 家にいるよ。でも、なんで?」
「二分以内で着く。待ってろ」
「にっ、二分って……あっ!」
——ピッ
「切れた」
唐突にかかってきた土岐からの電話は、ほんの数秒のやり取りで呆気なく終わった。
「あっ、玄関! 鍵、開けとかなきゃ! てゆうか、迎えっ!」
でも、その〝ほんの数秒〟で、この後に起こることは丸わかり。『二分で着く』って、『待ってろ』って言われた。うちに向かってきてくれてるんだ。なら、迎えに行かなきゃだ。
スマホを持ったまま部屋を飛び出し、階段へ。そのままの勢いで二階まで駆けおりて玄関へと向かう。一階は父さんの歯科クリニック。その裏から続く外階段だけが我が家へのルートだから、階段下で待ってればいい。
「てゆうか、待ってたいんだよっ」
だって今日は、交換留学の最終日。夕方まで京都の本校で授業を受けてたはずの土岐が会いに来てくれてるのに、家の中でじっと待ってるなんて無理っ。
——ガシャンッ
「うおっ!」
「武田っ?」
外階段の下。急いで開け放った門からクリニック脇の通路へと飛び出した途端、前方から飛び込んできた影と鉢合わせた。
「おっ、お帰りっ!」
黒い影の正体は、俺よりもずっと荒い呼吸を繰り返してるヤツ。出会い頭の驚きで身を反らせたまま『お帰り』を言うと、ソイツの片腕が俺の肩に回った。
「ん、ただいま」
頭を抱えるようにキュッと引き寄せられ、甘いテノールが鼓膜をくすぐってくる。
「会いたかった。明日まで待てずに、東京駅から真っ直ぐ来た」
「……っ、土岐ぃ」
帰りをずっと待ってた、大好きな恋人。この声と熱も、ずっと待ってたよ?
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