もっと汚して【2】

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 会いたかったって言われた。  明日、学校で会えるのに、それが待てなかったから家まで来てくれたって。  学内交換留学ってさ、きっとすごくストレスだったと思うんだ。四日間とはいえ、東京校の代表として授業を受けてくるんだから、少しも気は抜けなかったんじゃないかな。  だから、きっと疲れきってるはずなのに、東京駅から直行で俺に会いに来てくれた。  こんな情熱的に、行動で気持ちを示してもらったの、初めてだ。すげぇ嬉しい。 「ふっ……ふぉっ……ふぉぉ、っ」  おまけにだな。ちょうど今、もうひとつ、初めての体験が追加されたとこなんだよ!  武田慎吾。十七歳にして、初体験×初体験!  「土岐? なぁ、マジで寝てんの?」  顔を近づけて声をかけてるのに、返事がない。ソファーの背もたれに頭を預けて寝てるんだ。土岐が。  こんな姿、初めて見る。土岐はさ、どんな時でも隙がない。どれだけハードスケジュールで疲れてても、こんな風に人前で熟睡してる姿なんて見せたことないんだ。  それが、冷たい麦茶を大急ぎで用意した俺がソファーに駆け戻った時にはもう、静かに寝入ってた。超貴重な寝顔を無防備に晒すという、特典つきで。  あー、けど、『寝顔』っつっても、寝てるとはとても思えない怜悧で整った表情ではあるんだけどさ。  一見、座禅を組んでる高僧みたいな清廉な寝顔なんだけどさ。  初の寝顔披露には違いない。やっぱ初体験だよ。俺、感激っ!  どうする? どうする? 滅多にない機会だし、失礼して記念撮影しちゃう? ツーショットで。  駄目かしら。ツーショでも盗撮だから訴えられちゃうかしら? 慎ちゃん、ウキウキ悩んじゃうーっ。
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