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「武田? 『助けて』って、何だ」
一瞬のうちに脳内を埋め尽くした疑念と不信。ついさっきまで甘い雰囲気にふわふわと浸っていたはずの全身が、一気に凍りついていく。
「俺以外のヤツに助けを求めるってことは……」
——カラン、カランッ
下駄が、手から離れる。
床に落ちたそれが硬い木の音を響かせる中、低い唸りが口から零れ出た。
「まさか、俺から逃げる気か?」
自らが想定した言葉とその可能性に、一瞬で血が沸騰する。
「そんなこと、許さない」
すぐさま否定し、駆け出した。許さない。絶対に。
「お前は、俺のだ」
俺から離れるなんて。そんなこと、許すものか。
「たけ……っ!」
——ダンッ、ダダンッ!
「……っ、ぶな……」
呟きを落とした顔は、かちこちに強ばっている。
たった十数段の階段を駆けおりる。そんな簡単なことの途中で、俺は、あろうことか階段から足を踏み外しかけた。
「なんだ、このザマは」
我を忘れ、気ばかり焦っていたせいだ。
「慌てすぎだろ、俺。情けない」
自分への、ひとり突っ込みがひどく虚しい。武田のことしか見えずに階段から落ちかけた今の体勢が、哀れすぎる。
着替え途中で飛び出してきたから、上半身に何も身につけていない半裸姿で、スタイリッシュなスケルトン階段の飾り手すりに両手で掴まっているのだから。
もう少しで、尻を強打して、そのまま無様に転げ落ちるところだった。
が、下り終わるまでにまだ七、八段はある位置での失態に本気でヒヤリとしたものの、すぐに立て直し、再び足を動かす。
「——あっ、うん。早速だけどさ」
外ではなく、キッチンの方向から恋人の声が聞こえてきたからだ。
「こないだ、お前ん家に泊まった時にさ、俺が頼んで一緒にやってもらったことあったじゃん?」
俺が聞かされていない内容。ムカつくそれを繰り広げているこの会話を、すぐに断ち切ってやる。横暴でも理不尽でも、なんとでも言えばいい。
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