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「花火っ、花火ぃー。たっのっしみぃーっ」
日没直後。開け放った窓から届く波音に重なり響くのは、俺の好きな声。
「ご機嫌だな。そんなに楽しみか?」
「うん、もちろん!」
寸前まで海面を燃やしていた夕陽さながらの、とことん明るい笑顔つきの朗らかな声だ。
皆で食ったバーベキューの後片づけを済ませたキッチンで、隣に並んだソイツが向けてきた全開の笑顔。それは、もうすぐ始まる花火大会への期待でキラキラと輝いている。
「ふっ、俺もだ」
眩しい明朗さに引っ張られ、俺の口元も自然と緩んでいく。
表情が硬いとよく言われる俺だが、コイツといると気分は浮き立つし、にこやかまではいかないが勝手に口元がほころんでいくんだ。
「お前、浴衣持ってきたか?」
「うん。それも、もちろん! 俺、あの浴衣を着るの、すっげぇ楽しみにしてたよ?」
武田の笑顔がさらに輝きを増した。俺が、揃いで作ろうと誘い、一緒に生地を選んで同じ柄の色違いで仕立てた浴衣のことを思い浮かべたんだろう。
花火大会も楽しみだが、俺と揃いの浴衣を着るのもとても嬉しいんだと、ニカッと輝いた笑みが教えてくれている。
可愛い。可愛い。
俺と同じ気持ちを即答で返してくれる恋人に、甘くむず痒い感覚が胸いっぱいに広がっていく。可愛すぎて、感情の収拾がつかない。
「お前、何だ、それ。誘ってるのか?」
「へっ? ……んにゃっ?」
波立てられた感情のまま、さっきからずっと気になっていた〝あるモノ〟へと、唇を寄せていくことにした。
突然の俺の行動に目を丸くした相手の上唇に、カリッと歯を立ててやったんだ。
「気をつけろ。こんなところにパイの欠片をつけてたら、誰だって『舐めてください』って誘われてる気になるぞ」
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