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「だったら、私は、伊藤青蔵さんの伯父さんにお礼を言いたい。その伯父さんは、今どこにいるんですか?」
そのとき、伊藤青蔵は苦しそうな表情をした。
あれ、私なにか、いけないこと言ったかなあ?
その私に、伊藤青蔵は驚くべきことを告げた。
「伯父さんは、もういないんだ。飛行機事故で行方不明になって、帰って来ない。たぶん、死んだのだろうと言われている。海に落ちたから、捜索しても出てこなかったけど」
えっ?死んだ?
もういない?
「だから、せっかく礼を言いに来てくれたのは嬉しいけど、礼を受ける人はもうこの世にはいない。君の気持ちは、伯父の霊前に報告しておくよ。残念ながら、そういうことだから、じゃあ」
伊藤青蔵は悲しそうな眼をして、ふいっと私から顔を反らし、歩いていってしまった。
伊藤青蔵がそれほどまでに悲しむなんて、相当大事な伯父さんだったのだろう。
なんてこと・・・探し求めていた人が、もうこの世の中にいなかっただなんて。
私はしばし、呆然とした。
命の恩人がもうこの世にはいないという現実。
それはすごく寂しかった。
でも・・・私はまだ生きている。
何ができるか分からないけど、何でもできる。恩を返すこともこれからも出来る。
伊藤青蔵の伯父さんがもうこの世にいないのなら、私は、伊藤青蔵に恩を返すのだ。私は決めた。
「待って」
思い切って、私は伊藤青蔵を追いかけた。
恩人に恩義を返す。
それを伊藤青蔵に返したいの。
彼の伯父さんだもの。
「あなたに、恩を返させてください」
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