【短編】雨宿りの話

3/5
19人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
「迷惑だったかよ?」少しバツが悪そうに頭を掻きながら、青年はそう言った。  私は思わず「え?」と、声を裏返してしまう。  私の脇から妻が青年に優しく笑いかけて、「いいえ。平気ですよ。」と優しく答える。 「そうか。ならいいんだ。俺、馬鹿だから、あんま常識とかなくてさ。」 恥ずかしそうにそう言う彼は、言葉使いは乱雑だが、どこか素直な物言いで、少しだけ好感が持てた。 「『最近の若いもんは…』ってよく頭領にも、しかられるんだ。」 「最近の若いもん」のところを眉間にしわを寄せ、誰かのまねをするように低い声で言う青年。彼はアルバイト先である工事現場の頭領をえらく尊敬しているらしかった。 「仲間はさ、大人なんて信用できねー。ていってんだけど、俺は、頭領みてぇな、シビぃ大人になりてぇんだよ。そんで、こいつとの事も認めてほしいんだ。」  そう言って、青年の裾を摘む彼女の方を見て、シシシと矯正の針金付きの歯を見せて笑った。  その笑顔は飾りっ気のないもので、夜だというのに、私には少し眩しかった。 「お詫びと言っちゃ何だけどよ。俺、歌手目指してんだ。いつもここらで歌ってんだけど、今日はおっさんたちに一曲サービスしちゃうぜ。何か好きな曲ねぇか?」  少し誇らしげにそう言う青年。しかし、そんな事を言われても急には出てこない。かといって折角の申し出を無下に断る事も気が引けた。そんな私を他所に妻が口を開く。「それなら-ー。」
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!