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来瀬川には六月の終わりにホタルが集う。それ以外、名所のひとつもない小さな町で、俺と明里は毎年ホタルを見た。来年も再来年も、大人になって子供が生まれても一緒に見ようと約束した。
それは俺の薄暗い人生に灯っていたわずかな希望だった。
けれど十八の晩春、明里はいなくなった。
母娘の行方を知っている人間はひとりもおらず、俺の母親は「せいせいした」と口汚く罵った。同意を求められた俺は母を罵倒し、家を飛び出したくせに町は出ていけなかった。
いつか『ホタルの夜会』に明里が姿を見せるかもしれないと、淡い期待に心を預けたまま、十年の時が過ぎた。俺はいまだに生まれ育った土地から離れられないでいる。
心の中に灯ったわずかな光が、いつまでも消えないから。
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