水縹

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水縹

ねえ、覚えてる? なにを? 覚えてないなら いいよ そうか 変なやつ そんな会話は  まるで 昨日あったような 若き日の一コマ きみは 何が 聞きたかったの? もう 答えて くれることは  二度とない 水縹色の着物で 裾から溢れるように見える 聴色が似合っていた きみ 物憂げに 佇んでいた 僕は 一瞬 きみを背にした こころが ざわついて 苦しかった 再び 振り返ってみたとき きみは もう 遠く 遠く  遠ざかっていったね 揺れる 金糸の帯 切なくて ぼくの目に  焼き付けて 離れない 在りし日の姿 記憶を止めて  儚く揺れた  青もみじの頃になると 水縹色の名残 追っては 一人 立ち尽くす      
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