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――覚えてます? 私のこと。
こちらの意志とは関係なく、口がくるみ割り人形のように操られ、カラカラに乾いた喉からその言葉が発せられる。
だが、俺と差し向かい、怪訝そうに顔を歪ませて「誰?」と呟く人物もまた、俺だった。
何度も繰り返される夢。
たぶん、今朝で四度目。
しかも、必ずこの場面で目が覚める。
バスタブになみなみと張った湯に肩まで沈め、まだ覚めきらぬ眠気に支配された脳内で、先程まで見ていたリアルな夢をもう一度再生するのが朝のルーティンになっていた。
本来、夢なのだから、辻褄が合わなかろうが、現実味がなかろうが、大した意味などないはずだ。しかし、俺の脳の裏側にシミのようにこびり付いて離れないその夢を、こうして反芻するうちに、この身が感じた記憶として強化されていくような妙な感覚があった。
目線の高さや、発せられる声色、他人に呼ばれる名前からすると女性のようだが、知り合いでもなさそうだ。
見ず知らずの、しかも女性の「殻」を被って過ごすことは、今まで味わったことのない不思議な感覚がした。身体を通して五感は感じられるのに、足だけが地に着いていないような浮揚感があるのだ。
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