擬似恋愛中毒

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「もう、浅霧~! スタッフさんがどんなに素敵な方でも、この大事なタイミングに人前で口説いたりしないでよ! 相手役の渚ちゃんとの記事は嘘でも、『真剣交際』って書かれたからプラスのイメージだけど、『二股交際』なんて書かれるのは勘弁だからね」  俺の隣にいた、マネージャーも兼務している社長の秋山(あきやま)が、冗談っぽい口調で釘を刺す。その目の奥は笑ってない。  子役の頃からマネージャーとして二人三脚でやってきた秋山は、俺の事務所独立と共についてきてくれた恩人だ。俺が浅霧 祐也としてやっていけてるのは、確実に彼女のお陰だと思う。こんなディテールも、かなりリアルな夢だ。 「俺たち、前にも会ったことあるよね?」という問いかけに対して、彼女の口からは当然、「初対面です」という返事が返ってくると思っていた。それは、普段、俺好みの女性に声を掛ける常套句だったから。  だが、この口から出たのは、あまりにも予想外な言葉だった。 「会ったこと⋯⋯あります」 「えっ?」 「⋯⋯覚えてます? 私のこと」 ――山下さんという名の、見知らぬ女性の視点で勝手に口が動き、そう言い放つ。  それから、目の前にいる、少し戸惑った表情を作った俺が「誰?」と呟くと、いつもここで夢から覚めるのだ。
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