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「遅いから、ちょっと心配しちゃった」
「君、一体、どこから⋯⋯」
「どうしたの。忘れたなんて言わないでよ。昨日の夜、あんなに激しく抱いたのに」
「えっ⋯⋯」
頭がうまく働かない。
どんなに酒を飲んだって、抱いた女の記憶まで忘れるようなことは、これまで一度だってなかったのに。なら、どういうことだ。
彼女は、手にしたグラスを俺に渡した。
「祐也があんまり遅いから、退屈になって映画見てたの。一緒に見ない?」
一時停止していたテレビにリモコンを向けると、画面が息を吹き返す。これが夢か現実かもわからないまま、ソファーの彼女の隣に腰掛け、画面をぼんやりと眺めた。
どうやら、イギリスの映画らしい。
主人公の赤毛の男が、何度も同じ夢を繰り返し見ながら、自分の人生を振り返るというストーリーのようだ。どこか、俺のこの状況とも似ている気がする。
真剣に映画を見入っている彼女はごくごく自然体で、おかしな動きなど感じられない。
したがって、おかしなことが起きているのは、俺の内側の問題なのかもしれない。
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