擬似恋愛中毒

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*  ブハァッ!  ゲボッ、ゴホッゴホッ、はぁ、はぁ、はぁ。  マジで、死ぬかと思った――。  すっかり冷たくなったバスタブの中に、全身を沈ませていたようだ。知らぬうちに意識がどこかへ飛んでいたらしい。  どこまでが夢で、どこからが現実なのか。  いや、この瞬間も、夢の中かもしれない。  自分の身体が自分のものでないような感覚のまま身支度を整え、舞台挨拶の会場に向かうあいだも、彼女のことばかりを考えていた。  あの夢と同じ現実が存在するとしたら、もうすぐ本物の彼女に出会うことになる。  あれは予知夢だったのか。  何かを暗示していたんだろうか。 「主役の浅霧 祐也さん、会場に入られます!」  スタッフが目一杯に張り上げた声で俺の存在を知らせると、ぴりっ、と周囲に緊張感が走る。ここまではいつもと変わらない景色。  会場でまず目に入ったのは、夢の中で彼女と一緒にいた、永井さんという後輩だった。そこにあの彼女の姿はない。 「あの、ちょっといい?」 「は、はい!」 「山下さんって、どこにいる?」 「えっ、弊社の山下ですか?」 「そうそう。今回、担当だって聞いてたんだけど、姿が見えないから」  すると、後輩の表情がみるみると曇りだし、その目に涙を浮かべた。 「その⋯⋯山下なんですが――」
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