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ブハァッ!
ゲボッ、ゴホッゴホッ、はぁ、はぁ、はぁ。
マジで、死ぬかと思った――。
すっかり冷たくなったバスタブの中に、全身を沈ませていたようだ。知らぬうちに意識がどこかへ飛んでいたらしい。
どこまでが夢で、どこからが現実なのか。
いや、この瞬間も、夢の中かもしれない。
自分の身体が自分のものでないような感覚のまま身支度を整え、舞台挨拶の会場に向かうあいだも、彼女のことばかりを考えていた。
あの夢と同じ現実が存在するとしたら、もうすぐ本物の彼女に出会うことになる。
あれは予知夢だったのか。
何かを暗示していたんだろうか。
「主役の浅霧 祐也さん、会場に入られます!」
スタッフが目一杯に張り上げた声で俺の存在を知らせると、ぴりっ、と周囲に緊張感が走る。ここまではいつもと変わらない景色。
会場でまず目に入ったのは、夢の中で彼女と一緒にいた、永井さんという後輩だった。そこにあの彼女の姿はない。
「あの、ちょっといい?」
「は、はい!」
「山下さんって、どこにいる?」
「えっ、弊社の山下ですか?」
「そうそう。今回、担当だって聞いてたんだけど、姿が見えないから」
すると、後輩の表情がみるみると曇りだし、その目に涙を浮かべた。
「その⋯⋯山下なんですが――」
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