擬似恋愛中毒

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* 「はぁ~。いよいよ限界かも⋯⋯」   ため息をかき消すように、玄関ドアが背後で軋むような音を立てて閉まった。  夢はいつもこの場面から始まる。  彼女が自宅に帰宅した直後のようだ。  靴棚の上にある置き時計の短針が、10を差している。  鉛のように重い身体を引き摺って、すぐ近くにある単身者用キッチンにもたれ掛かると、IHコンロの上にうっすらと白くホコリが被っているのが見えた。ここを使う余裕すらない人物なのが安易に想像できる。  さらに目を引くのは、その横にある猫の額ほどのシンクだった。無数の、開栓済み栄養ドリンクの瓶と薬の包装の殻がそこに投げ込まれ、山をなしている。  それから、突然視界に入り込んだ彼女の手が、開封済みの小箱から薬を取りだし、慣れたように口にふくむと、一気に水で飲み下す。  朝に栄養ドリンク、夜に睡眠薬。  すでに彼女の身体が悲鳴をあげているのは、この状況を見れば一目瞭然。数本の撮影が重なった繁忙期の俺ですら、こんな摂取の仕方はしない。⋯⋯何考えてんだ。  「来週の映画公開が終われば、少しゆっくりできる⋯⋯」   最後の力を振り絞り、無造作に放ってあったピンクの部屋着に着替え、リビングのソファーに倒れ込む。そして、おもむろに掴んだリモコンをテレビへ向けると、それまでの静寂を破るような明るい音が漏れた。 「『恋ベス 』の最終回のリアタイ、間に合った⋯⋯」  ドラマの冒頭に三分間だけ流れる先週の回想が、ちょうど終わったところ。『恋ベス』の最終回は、世帯最高視聴率22.6%を記録し、先週の金曜日に放送を終了している。  この不可解な夢は、その金曜の夜から四日間続いていた。  
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