擬似恋愛中毒

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 主人公に抱き寄せられたヒロインの迫真の表情が、画面に大きく映る。  一昨年大ヒットした学園物ドラマで、生徒役としてブレイクした雨宮 渚(あまみやなぎさ)が、今回のヒロイン役として大抜擢された。  少女のような透明感、その目の奥に宿る強さ、独特な存在感までも兼ね備えた彼女の人気が出るのは、まぁ納得できる。  だが、彼女をもってしても、原作のヒロイン、結城みのりこと”ミノリン”を越えられるとは、はなから思っていない。”ミノリン”のような、純真無垢をそのまま具現化した女性など、この世のどこを探してたっていない。俺に、体の関係だけの相手はいても、特定の恋人がいないのは、間違いなくそれが理由だ。  作品の映像化の条件に、プロデューサーから、売れ筋の雨宮 渚をねじ込んでくれと頭を下げられたから、仕方なく妥協したまで。  このドラマが放送される直前に、俺と彼女、二人だけの写真が撮られて、熱愛報道としてスクープされた。  もちろん、シロだ。番組スタッフ数名と打ち合わせがてら行った店で、故意に、二人だけの写真を切り取られたにすぎない。  しかし、お互いの事務所は沈黙を貫き、否定も肯定もしなかった。それがネット上で物議を醸し、ドラマ人気に拍車をかけた。  お陰で、春クールのドラマの中で、視聴率はダントツのトップ。  結果的に、関わっている者が皆、利益を得られる図式だから、誰も多くは語らない。少なくとも映画が公開されている間は、こちらとしても、今回の記事の効力が効いてもらわなくては困るのだが。
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