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『 ファンでいる 』ということは、本来、対象の相手と自分の間に、防弾ガラスのような厚い壁が存在すると理解しているものだ。
ガラスの向こうにいる虚像の一挙一動に胸踊らせ、時には励ましてもらい、自分を取り囲むリアルな事実に立ち向かう心の栄養補給を受け取り、生きる喜びを感じる。
だが――例外もいる。
さっきまで、こちらに誰よりも甘くとろけそうな表情を見せていたはずが、わずかな違和感をきっかけに、鬼のような形相でガラス越しに憎悪を吐きかけてくる。しかも、それだけに飽き足らず、防弾ガラスの壁を破壊して、こちら側へ来ようとする者さえいる。
愛と憎悪は紙一重だと誰かが言っていたが、ファンとアンチも同様だろう。
本当に心が離れたのなら、対象の相手に無言で背を向けて去っていけばいいものを。
「明日はやっと⋯⋯祐也に逢えるんだから、早く寝なきゃ⋯⋯」
睡眠薬が効いてきた彼女の声は、俺の視界が闇に包まれて行くと共に、深い眠りの森へと消え入った――。
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