擬似恋愛中毒

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* 「祥子(しょうこ)せぇ~んぱ~い」  突然、鼻にかかるような甘ったるい声が、暗闇の静寂を破る。  目は開かれている感覚はあるのに、視界は一面、真っ白な光に包まれている。  立ちくらみがするほどの強烈な眩しさに、目が沁みて涙が滲んだ。苦し紛れに何度か瞬きをすると、次第に目が慣れたのか、その光が頭上のライトなのだとようやく分かる。  夢の途中、彼女の部屋で目を閉じ、次に開くとなぜか、映画の舞台挨拶の会場に場面が切り替わっているのだ。  「俳優さん方って、もうすぐいらっしゃるんですよね、祥子先輩!」 「その呼び方は止めなさいって何度も言ったでしょ。もう学生じゃないんだから!」 「は~い。山下(やました)先輩」  彼女は「山下 祥子(やましたしょうこ)」という名前らしい。  会話をしているのは、彼女の会社の後輩というところだろうか。  何度かこの夢を見るうちに分かったことがある。彼女は、映画版『恋ベス』の配給会社で広報担当をしているらしい。  これは、偶然の一致なのだろうか。 「同学のよしみであなたの教育係を引き受けたけど、そこに私情は挟まないからね。あえてビシビシ行くよ!」 「えぇ~。勘弁してくださいよ~」 「でもまぁ、今回が永井(ながい)が入社して初めての案件なのに、大きな変更やトラブルがあっても、負けずに自分からドンドン動いて頑張ってたこと、私は知ってるから」 「先輩⋯⋯」 「できる限りのことはやったんだから、残された私たちの仕事は、これまでやってきた準備通りに、滞りなく、この舞台挨拶が終わるのを見届けること」 「はいっ!」  
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