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「祥子せぇ~んぱ~い」
突然、鼻にかかるような甘ったるい声が、暗闇の静寂を破る。
目は開かれている感覚はあるのに、視界は一面、真っ白な光に包まれている。
立ちくらみがするほどの強烈な眩しさに、目が沁みて涙が滲んだ。苦し紛れに何度か瞬きをすると、次第に目が慣れたのか、その光が頭上のライトなのだとようやく分かる。
夢の途中、彼女の部屋で目を閉じ、次に開くとなぜか、映画の舞台挨拶の会場に場面が切り替わっているのだ。
「俳優さん方って、もうすぐいらっしゃるんですよね、祥子先輩!」
「その呼び方は止めなさいって何度も言ったでしょ。もう学生じゃないんだから!」
「は~い。山下先輩」
彼女は「山下 祥子」という名前らしい。
会話をしているのは、彼女の会社の後輩というところだろうか。
何度かこの夢を見るうちに分かったことがある。彼女は、映画版『恋ベス』の配給会社で広報担当をしているらしい。
これは、偶然の一致なのだろうか。
「同学のよしみであなたの教育係を引き受けたけど、そこに私情は挟まないからね。あえてビシビシ行くよ!」
「えぇ~。勘弁してくださいよ~」
「でもまぁ、今回が永井が入社して初めての案件なのに、大きな変更やトラブルがあっても、負けずに自分からドンドン動いて頑張ってたこと、私は知ってるから」
「先輩⋯⋯」
「できる限りのことはやったんだから、残された私たちの仕事は、これまでやってきた準備通りに、滞りなく、この舞台挨拶が終わるのを見届けること」
「はいっ!」
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