どうしてこうなった。

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 あの日から1ヶ月間の謹慎を言い渡された俺は謹慎明けに陛下の使者という方から王命で悪女メルフィーの婚約者候補に選ばれてしまった。……なんで俺が。悪女はウィリティナを虐めていなかったようだが、それは偶々かもしれない。俺は未だ疑っている。だが、王命には逆らえない。  ーー使者からの王命による文書を読み上げられた時に“候補”という事にホッとしていて、何故“候補”なのか、ということに疑問を抱かなかった。そんな俺だから後々後悔に苛まれるなんて、全然思い付きもしなかった。  王命が下った後、公爵家から日時を指定されてその日に公爵家へ向かう。と言ってもしがない男爵家には馬車も無い。迎えを寄越すと言われたが、それは断って歩いて行く事にした。迎えなんてあの悪女に媚びるようで嫌だし、辻馬車で公爵家に向かうのもなんだか恥ずかしかったからだ。  そんなわけで辿り着いた公爵家は……当たり前だが俺の家の3倍以上の大きさに見えて、しかも正門から屋敷の玄関までが見えない。さて、どうするかな。何となく真正面から乗り込むのは、王命とはいえ癪だから、裏から回り込んで入り込む事にしようか。でもおそらく不審者が入らないよう、見回りとかしていそうだよな。  どうするかな。なんて考えながらウロウロしていた俺はどうやら、本当に裏手に来ていたらしくて。女の声に足を止めた。 「ねぇ、セリ。そろそろデイル様がいらっしゃる頃かしら?」 「左様でございますね。指定時刻まではまだ少々ございますが」 「そう」 「……恐れながらお嬢様」 「なぁに?」 「あまりにもお人好し過ぎませんか」  1人は悪女メルフィー。もう1人は悪女をお嬢様と呼んでいるから侍女というところか。ふぅん。此処から直接現れてやろうかな。公爵令嬢は驚くだろうよ。ふん。悪女め。必ずお前の本性を暴いてやるぞ。 「お人好し、ね……」 「そうでございましょう? 本来ならば何の罪もないお嬢様に冤罪を着せかけた男爵令息を婚約者候補、として縁を結ばせる事を陛下に進言するなんて」 「それは……」 「あんな男爵家は潰したって良いではないですか!」  さすが、悪女の侍女だな。主人が悪女ならば使用人も悪女か! 失礼な事を言う女だな! 「それはお父様も仰っていたわね。……もちろん、私だって何もしていないのに罪を擦りつけられようとした事は怒っているわ。でも」 「あんな男爵家でも潰してしまえば、男爵領の領民達が肩身の狭い思いをする、ですか」 「……ええ。潰すのは簡単よ。お父様なら、ね。でもその先は? 男爵家が潰れれば領地は王家預かりになる。あの男爵領は残念ながら作物は何処の領地でも作っている小麦が主流よ。それに海沿いだしね。他に特産品も無い。そういった土地の代替領主は、こう言ってはなんだけどあまり優秀ではない文官がなるの。だって誰がなっても困らないから。特産品が珍しいならまた違ったのだけど。 あの男爵領は優秀でない文官でも治められる。しかも不正を行わないために代替領主は3年くらいで変わってしまう。そうなれば、領民が何かを訴え出ても黙殺される可能性が有るのよ。実際、過去にそういった例があった。あの男爵領もそうなるかもしれない。そうなれば困るのは」 「領民ですね。けれど、その領民のためにご自分の名誉を損なった相手を候補とはいえ、婚約者にするなんて、お人好し過ぎます」 「……そう、かもしれないわね。お父様も侮辱されたというのに、と嘆かれたわね」 「……それはそうでございましょうね。まぁお嬢様らしいですが」 「ありがとう、セリ」  ……悪女のくせに、余計な気を回すなんて信じられない。まさか、俺が此処に居ると気付いて、わざと良いお嬢様アピールか⁉︎ ふん、俺はそんなのにはやられないからな!
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