どうしてこうなった。

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「ただいま帰りました」  公爵家から見れば犬小屋にも見えるような我が男爵家に帰れば、両親と2人の兄が揃って待ち構えていた。……なんだろう? 「お帰り、デイル。メルフィー様に何やら粗相はしていませんね?」  母上が尋ねてくるので、無言で頷く。挨拶もしてないし終始無言だったが咎められなかったから、粗相はしていないだろう。 「そう。それなら良かったわ」  両親はホッとして玄関から居なくなった。デイルはそのまま自室に向かおうとしたが、兄2人が止めて長兄の部屋に俺は連行された。 「なんだよ、ザイル兄さん」  長兄・ザイル。次兄・ゼイル。2人は両親や使用人が廊下を通っていない事を確認してからドアをピッタリ閉めて、同時に息を吐き出した。 「父上と母上はお前の事を信じているようだからアレ以上尋ねなかったが、俺とゼイルはお前が要領良く嘘をつく事を知っている。本当に何もなかったんだな?」 「ないよ。そこまで信用されないなんて思ってなかった」  ザイルの問いかけに不貞腐れれば、ゼイルが更に大きく溜め息をつく。 「お前のやらかしがウチを危機に陥れた自覚は無いのか! 言っておくがな。お前や殿下達がメルフィー様に婚約破棄を突きつけたアレは、メルフィー様があの場に居た生徒達の各家の当主宛に手紙を書いて、余興だから、成人前だから、と大目に見てくれるよう願ったからお咎め無しなんだ。しかも、先に婚約を解消されていたからな。 本来なら学園を卒業した時点で、成人とされる。だが、卒業式当日だった事から成人前だ、とメルフィー様が態々各家に取り成しの手紙を認めた。だからこそ、大きな問題にされなかった。それ故にウチやウィリティナの家は取り潰しにもなっていない。公爵家に睨まれた時点で取り潰しになっていてもおかしくなかったのだからな、その自覚も無いのか」  そんな事、知らない。  悪女にそんな気遣いが出来るなんて思ってもみなかった。 「悪女のくせに」 「貴様、まだそんな阿呆な世迷言を言っているのか!」  ザイルが俺を拳で殴る。俺は不意打ちでよろけた。長兄も次兄も俺を憐みの目で見下ろしてきた。 「メルフィー嬢がウィリティナを虐めているなんて物理的に無理だって何故分からない。彼女は王太子殿下の婚約者だった。その言動は全て監視されていた。そう聞き及ぶ。それは寝ている時でさえ、だったそうだぞ。しかも、彼女は学園に通った後は王太子妃教育で直ぐに城に行き、学園の休日は朝から登城。ただ寝るだけのために公爵家へ帰るような生活だったそうだ。その上、学園内の成績は学年で10位以内を取らないと、王太子妃教育では叱責されてしまうらしい。 俺の知り合いが王太子妃教育を担っている教師と知り合いらしくてな。本来、話してはならない事だが、今回の一件を重く見た王家が内々にやらかした家にメルフィー様が虐めなどやれない事を物理的に証明するために話をすることを認めた。これだけ忙しい上に監視されていて何故虐めなど出来ると思い込んでいるのか、お前の思考が分からんよ」  ザイルの説明に、俺は納得したくなかった。あんなに悲しそうなウィリティナを兄達は知らないから、と本気で思う。だが、そんな俺の気持ちを読んだようにザイルもゼイルも溜め息をついて、首を振った。 「恋は盲目とはよく言ったものだな」 「バカにつける薬が無いんですよ、兄さん。とにかく、メルフィー嬢の機嫌を損ねたらその時点でウチは終わりだ。そこは理解しろ」  ザイルとゼイルに呆れられて見捨てられるような言い方をされながら、釘は刺された。俺は「分かった」とだけ言っておいた。どうせ、家族にもウィリティナの悲しみは解らないのだ。だったら俺も好きにさせてもらうさ。
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