どうしてこうなった。

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 それからどうなったか、と言えば。  一応婚約者候補だからなのか、手紙が時折届く。内容は良い天気だとか、体調を崩さないようお気をつけ下さいとか、当たり障り無い事。後は菓子が手紙と共に届く。菓子の量から見るに家族で食べられるように、ということか。悪女のくせに出来るオンナだと知らしめたいのか、そんな気を回してくる。  フン。  お前などに気を許すわけがない。  だが、菓子は男爵家では食べられないような高級品なので、それは食ってやっている。手紙の返信など一度も書いた事は無いし、菓子の礼に何かをプレゼントした事もない。悪女なんかに費やす時間がもったいない。  後は特別、変わらない日々。  いや、学園を卒業したから仕事はしている。ブルトンやゴレット、ゾネスのように頭が良いわけじゃない俺は、文官などなれるわけがなく、武官に志願していた。王宮を守る武官の腕前くらいはある、と言いたい所だが残念ながらそこまでの腕は無い。王都見回り隊に配属されている。この見回り隊で隊長を務められるようになれば、王宮を守る武官も目指せるので、そこを目指している所だ。  両親は、俺が悪女の婚約者になれば公爵家に婿入りするのだから、そこを目指す必要はないのでは、と言っていたが、婚約者になる気など毛頭ないので、万が一を考えているだけ、と誤魔化した。向こうが頭を下げてきたって婚約者などなるわけがない。アイツは悪女だ。  そんな中で憂鬱な日がやって来た。  悪女と会う茶会だ。正直行きたくないが、行かずにいて家に問い合わせをされても困る。仕方なくノロノロと歩き出した。今回だって馬車など不要だと言ってある。また裏手に回ってみるか、と公爵家に到着すれば警備の者が彷徨いていた。多分巡回時刻というやつなのだろう。  そっとやり過ごした所へ、何処からか歌声が聞こえてきた。優しく澄んだ声は心の暖かい人を思わせる。女性なのは判るが……どんな人が歌っているのか。声の方向からすれば公爵家から。使用人が歌っているのだろうか。もっと聴きたくて惹かれるように足を向ければ、巡回が終わったのか警備の者が戻って来る足音が聞こえてハッとした。 「お、今日のお嬢様は機嫌が良さそうだな」 「機嫌が良いわけじゃないだろ。ああやって自分の心を慰めていらっしゃるだけさ」 「歌っているのに?」 「お嬢様は機嫌が良い時しか歌わないわけじゃない。寧ろ、辛い時こそ良く歌われている。殿下との婚約を解消する、と決められて実際に解消された時は毎日のように歌っていらしただろう」 「ああ、そういえば。でも今日は何故」 「あれだろ。婚約者候補にされた男爵家の息子」 「あ、今日来るのか。お嬢様をあんな目に遭わせておいてよくもまぁやって来るよな」 「全くだ。前回なんか向こうは来てやってるって顔と態度に表していたんだぞ」 「今回もそうかもな。お嬢様の気も知らないで」 「許されるならボコボコにしてやりたいよ」 「それは公爵家に仕える皆が思っているさ」 「あ、お嬢様の歌が終わったな。戻るか」 「そうだな。今戻っても邪魔にはならないだろう」  ……あの歌声が、あの悪女だって言うのか。あんなに綺麗……いや、そんなわけがない。悪女にあんな歌は歌えまい。幻だ。
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