どうしてこうなった。

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「ようこそいらっしゃいました」  相変わらず俺の事など嫌いだとでも言いたそうな顔で出迎えられる。やはりさっきの歌がこの悪女なわけがない。茶を1杯飲んだら帰ろう。来てやったんだ。さっさと帰っても文句など言われまい。  もちろん挨拶など一切せずに茶だけ飲んでサッと立ち上がった俺に、侍女がスッと何かを差し出して来た。それは高級店の菓子箱。土産として持ち帰れ、ということか。悪女には話しかけたくないが、侍女には素直に「持ち帰れ、と?」尋ねれば侍女は無言で頷いた。勝手に向こうが用意したのだから礼を言う気はないが、家族は喜んで食べるだろう。持ち帰ってやることにする。  俺はこの時何にも解っていなかった。  こんな俺の態度の方が、悪人のようであるなんて。俺がその事に気付くのはもっと後だが、振り返ってみたってつくづく俺は嫌な奴としか自分でも思えない。この時に気付けていれば、あんな結末を迎える事にはならなかっただろうか。  その後も変わらない日々が過ぎていき、また憂鬱な茶会の日が近づいて来ていた。2回は行ったんだし、今回は体調が悪いと言って参加しない事にしようか、と思っていた矢先だった。 「デイル」  母が血相を変えて現れた。なんだ。 「どうしたのさ」 「デイル、ウィリティナちゃんが行方不明になっているらしいんだけど、心当たりあるかい⁉︎」 「ウィリティナが⁉︎」  初恋の少女が行方不明だと聞いて居ても立っても居られなくなる。ウィリティナの領地はお隣だ。その関係で王都のこの屋敷も隣同士になっている。慌ててウィリティナの屋敷を訪れたが大騒ぎで俺どころじゃないみたいだ。……まぁそうか。サーベル殿下はご存知なのか、と王城へ向かおうかと思って、ハッとした。  まさか、悪女が何かしたのではないだろうな!  俺はこの日初めて悪女の屋敷である公爵家まで馬車で向かった。途中で豪華な馬車が見えて、気付く。馬車に付けられている紋章はサーベル殿下のもの。慌てて馬車から降りて様子を見ようと近づいた。門で殿下が叫んでいるのが聞こえてくる。 「ウィリティナをどこにやった! お前が拐ったのだろう!」  やはりそうか! 「殿下。いきなり押しかけてきてそのように騒がないで下さいませ。ウィリティナ様がどうされたのです?」  悪女が門まで来ているらしい。よし、俺も殿下に加勢をしてやるぞ! 止めていた足を動かそうとするより早く、殿下がまた叫ぶので足を止めた。 「しらばっくれるな! ウィリティナが城から行方不明になった。お前が何かしたのだろうがっ」 「はぁ……。殿下、私はもう貴方様の婚約者ではございません。故にお前呼ばわりをされる筋合いは有りませんわ。それから、ウィリティナ様をどうにかするなら、城では無理ですわよ。ご自分の住まいなのに警備体制に不安が有るとでも仰いますの? また、ウィリティナ様は殿下の婚約者と目されているお方。候補、とはいえ、護衛が付いているはずです。その護衛はどうされたのですか?」 「えっ、はっ? 護衛?」 「ウィリティナ様が行方不明になった事で取り乱されたのは理解しました。無事をお祈り致しますが、何故、私の元に押しかけて来る前に護衛に尋ねないのです? 陛下から証拠も無しに疑うのはやめるようにお叱りを受けませんでしたか?」  サーベル殿下が項垂れる。聞いていた俺も項垂れた。というか、護衛が付いていたなら、確かにそちらに尋ねるのが先だろう。まぁ悪女を疑う気持ちは理解出来るが。殿下が馬車に乗って帰城するのを見届けた後、俺も帰ろうとして、踵を返した所で「お嬢様……」というあの侍女の声が聞こえた。
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