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「どうしてメルフィー嬢が死んだか解るか? サーベル」
陛下の問いかけに殿下は答えられない。多分思考が回転していないのだろう。俺も、他の皆も。
「解らぬか。メルフィー嬢は公爵令嬢。その血は王家の血を引いている。故に下手に他の貴族に嫁がせられぬ。メルフィー嬢が産んだ子が男子だった場合、王位争いを齎すからな。無論、平民など尚無理だ。だから我が国では公爵令嬢は王家に嫁ぐか他国の王族に嫁ぐのだ。他国に嫁ぐ場合は、我が国の王族として迎えて養女になって、な」
そういう、ことか。
王妃になるのは公爵家の令嬢か他国の王女。逆に公爵令嬢は王妃か王族の妻、若しくは他国以外に嫁ぎ先が、無い。
「不幸だったのは、王太子妃教育を受けていたことだな。王家の知られたくない歴史まで知っていた。故に彼女は公爵家の跡取りにもなれなかった。デイルとやらが婚約者候補なのはそのためだ。公爵家の跡取りにすらなれない。何故なら彼女は王家の秘密を知っていた。
知り過ぎていた。
いくら王家の血を引く公爵家の当主といえど、その知識を元にして反旗を翻されては敵わぬ。それは他国にも迂闊に嫁がせられぬ事と同じ。
1番良いのはサーベルの正妃。次が側妃だった。だが婚約を解消した以上正妃にはなれない。だからウィリティナ、その方が正妃になって、その後メルフィー嬢を側妃として迎える必要があった。その方が逃げなければ、メルフィー嬢は死なずに済んだ。逃げ出した事でメルフィー嬢は行き場を失った。
貴様が妃教育に1年耐えさえすれば、メルフィー嬢は生きられた。逃げ出したから、サーベルに嫁ぐ事も出来ず、他に嫁げず。ゾネスのような愚か者が居る事により生涯幽閉の決断も出来ぬ。ゾネスが愚かにも勝手にメルフィー嬢を死なせないとも言い切れなかったからな。また城で幽閉も王族ではないから出来なかった。
ウィリティナよ、貴様がメルフィー嬢を死に追いやった一端を担っている」
「そんなっ、私、何も知らなかった!」
「知らぬで済むか! だったら何故サーベルに近寄った! 貴様がサーベルに近寄らなければメルフィー嬢が正妃だったのだ!」
「わ、私はただ……好きでもない人と結婚しなくちゃいけないサーベルが可哀想だって思って……」
「それで? 何故、婚約者が決まっているのか、何も考えていなかったのだろうが。王族教育の初歩すら修められぬ未熟者が、何も知らず、何も考えなかった結果がコレだ」
「わ、私は、知らなかったんだもの! 私は悪くないっ」
「知らなかった事は仕方ない。だが罪と言えば罪。そしてそれを悪くないなどと、良くもまぁ見苦しい事を! その方、黙っておれ!」
ウィリティナは陛下に叱られて泣き出す。いつもなら皆で慰めるけれど、それすら出来ない。
本当にウィリティナは、悪くなかったのだろうか?
「いいか、お前達。今も言ったが、メルフィー嬢は他の公爵2家にも侯爵家以下にも嫁げず、ましてや平民にもなれぬ。
国外追放? それは自力で生きられない令嬢に死ね、と言うものだな。だったら生きる希望など与えない方がいっそ情け。仮に生き延びても今も言ったように王家の秘密を知り過ぎているメルフィー嬢は危険な存在。
幽閉をするにも王族ではない以上、王城の敷地内に幽閉も出来ぬ。公爵領の何処かに幽閉とも考えたが、ゾネスが血迷って勝手に殺害せぬとも限らん。仮にもそのような事態に陥れば、それこそメルフィー嬢は死んでも死に切れぬだろう。更には修道院行きも有り得ない。我が国では王家が修道院を管理しておらず、故に監視も難しい。また王家が管理していない以上、修道院からメルフィー嬢を連れ去る貴族ないし他国の手の者が居ないとも限らない。修道院ですら、王家にとってまたメルフィー嬢にとって安寧とはいかぬ。だから毒杯を与えた。解るか」
何も、考えて、なかった。
何も、知らなかった。
その罪が、のしかかる。
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