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「お前のような悪女が私の婚約者など認めぬ! 婚約を破棄する!」
俺の斜め前で高らかに宣言したのは、この国の王太子・サーベル殿下。場所は王立学園の卒業式が終わり来賓も学園の教師達も(来賓を見送っているから)いない講堂で。
卒業式から1ヶ月後に婚姻する予定だった婚約者に婚約破棄を叩き付けている所だ。そのサーベル殿下の傍らには、俺の初恋……ウィリティナが可憐かつ気丈に殿下の腕の中で震えながらもーー俺はその背中しか見えないけど、震えているのは解るーー悪女を見ていた。
対して悪女こと公爵家の令嬢でサーベル殿下の婚約者……いや、元だな、元婚約者のメルフィーは、相変わらずの無表情で殿下とウィリティナと俺たちを見ている。俺たちというのは、俺・男爵家三男のデイル。俺は貧乏男爵家だけど、ウィリティナとは幼馴染みだ。
それから俺の隣の伯爵家の長男のブルトン。ブルトンの家は裕福な商人の家で、今ウィリティナが着ているドレスは彼の家の新作らしい。それからその向こうに宰相子息で侯爵家次男のゴレット。ちなみに彼は俺たちの学年で次席の成績を修めている。ウィリティナの勉強は彼が面倒を見ていた。……それでも学年の半分より下の成績のウィリティナだけど。
そして、悪女メルフィーの異母弟の公爵家の長男であるゾネス。彼は悪女メルフィーが王太子妃として嫁ぐ代わりに公爵家当主になる予定。悪女メルフィーは、王太子妃にはなれないが公爵家にも戻れないだろうな。ゾネスが追い出すに決まってる。ゾネスはサーベル殿下と本気でウィリティナを巡って争っていた。
「今更何を」
おっと。意識が飛んでた。悪女が何かを言ったぞ。……ん? 今更何をって言ったか?
「なに⁉︎」
「ですから、今更何をこのような場で仰っているのか分かりません、と申し上げました」
悪女メルフィーが扇で口元を隠しているにも関わらず、ため息を吐き出したように告げた。
「どういうことだ!」
「どうもこうも。殿下とわたくしとの婚約は既に解消されております。ですから1ヶ月後の婚姻式も無くなった、と国王陛下が直々にお話されているはずですが?」
「は?」
サーベル殿下が間抜けな声を上げるが、多分それは俺・デイルとゴレットとゾネスも同じ心境だと思う。ウィリティナも身体の震えが無くなっているから、相当驚いたのだろう。意味が解らず混乱しているが、それは俺たちだけで今日卒園する俺たちと同学年の面々や下級生達も動揺などしていない。……どういうことだ⁉︎
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