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「第二王子も第三王子も結婚してからどちらかの側妃にするということは、どちらかの正妃に子を産むな、というようなもの。国王若しくは王太子ならば執務を行う為の側妃を娶れるが、他の王族は子を儲ける以外の側妃など有り得んからな。故に、そんな事は出来ない、とメルフィー嬢は言った。
余の弟達には当然ながら既に妻がいる。その子ども達にも婚約者はいる。かと言って、他の公爵家の跡取りにも婚約者は居る。こちらはサーベルの従姉妹達だ。無論当主にも妻はおるな。
後はメルフィー嬢の嫁ぎ先は、叔父上……ネルト学園長くらいなものだった。叔父上は奥方を亡くされたからな。だが、現在その喪中だ。喪が明けるのは2年は先。その間、メルフィー嬢はどうするかと言えば、どうにもならない。既にメルフィー嬢はサーベルに捨てられた婚約者という汚名を一度着せられている。その噂を婚約解消で自ら消したがな。
婚約解消をしてウィリティナ、その方に譲ってみせた事でメルフィー嬢は噂を消した。それもサーベルのためだ。解るか。女に誑かされた愚かな王太子という噂を消すためにメルフィー嬢は婚約を解消した。
お前みたいに、ただ好きでもない相手と結婚するなど可哀想という気持ちの押し付けだけで、何も考えてない貴様より、メルフィー嬢はただ只管サーベルのために、何をするべきか考えて行動していた。
婚約者だから、というだけでなく、これが愛と言わずに何だと言うのか。メルフィー嬢はただサーベルを一途に思っておった事を余は知っている」
ただ、ただサーベル殿下のためだけに考えて行動した。それは婚約者というだけでなく、愛なのだと思う。そう、言わないなら、なんだと言うのだろう……。
「だが、此処までだった。叔父上の後妻になるために公爵家に居れば、今度は嫁ぎ先が無いと揶揄される。そこへ叔父上の後妻になれば、結局嫁ぎ先が無くて後妻だと嗤われる。叔父上はメルフィー嬢にそのような思いをさせたくなかった、とは言った。それでもメルフィー嬢が生きていられるのは叔父上の後妻になるくらいだ。
叔父上の子には当然妻がいる。叔父上の孫は第三王子より少し年上か年下。後はこの2人くらいか。故にメルフィー嬢に選択させた。叔父上の後妻か、叔父上の孫2人のどちらかと結婚するか。メルフィー嬢は、もう疲れた、と笑ったよ」
もう、疲れた。
それは、生きるのに、ということか。
「最期の願いは、侍女と父親に看取ってもらうこと。と言うからそうした。同時に余からは、お前達にこの結末を知らせておこうと思ってな。
余もメルフィー嬢の死に対して責任がある。報告を受けながらもサーベルを諫める事をしなかった。それはサーベルに期待をしていたからだ。愚かな事を仕出かす息子ではない、とな。余も含めお前達全員に彼女の死に責任がある。
だが、余以上にお前達が何も知らず何も考えず短絡的に行動した結果が、1人の令嬢の死を招いた。どんな生き方をするにしろ、メルフィー嬢の死を忘れる事は許さぬ」
その後、俺たちは退出させられ、ややして亡骸を抱いた公爵と侍女が出て来て俺達とは違う方へ向かうのを俺たちは見送った。誰も何も言わないまま。
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