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「とにかく、用件がそれだけでしたらこの場から下がって下さいな」
「なっ、何をバカな事をっ」
バカはお前だ。
という表情を悪女メルフィーではなく、この会場にいる俺たち以外の目と表情が語っていた。王族や自分達より上の爵位の者が居るから口に出さないだけに見える。……えっ。俺たちがバカなの? サーベル殿下もさすがに何かおかしい、と思い始めているようだ。
今は悪女メルフィーを断罪する時間だろう? 殿下の婚約破棄は断罪するために、悪女メルフィーの印象を悪くするために最初に持ち出したのだ。なのに、既に婚約は解消されていて、国王陛下も承諾されているという。更にはそれをどうやら俺たち以外、知っているような顔つきなのだ。何故? 一体何が? というか、この空気感は皆が悪女メルフィーの味方にしか見えない。
どういうことだ?
ウィリティナが虐められていた事は皆が知っていたはず。だから悪女メルフィーを断罪して、ウィリティナを虐めていた犯人として吊し上げれば、皆が味方になってくれるとばかり……。
なのに、この反応は。
「姉上! 貴様、どんな悪どい手を使って……!」
ゾネスが悪女メルフィーを罵倒しようとした所で、悪女メルフィーがパンパン、と両手を打ち鳴らした。
「お黙りなさい、ゾネス! あなた、もしや自分がお父様の息子で公爵家の跡取りだから、と私を貴様呼ばわりしても良いとか思っているんじゃないでしょうね⁉︎」
いや、その通りじゃん。
「その通りだが何が悪い」
「はぁ……。跡取り教育をどこに置き忘れて来たのか。たとえ何処かの家に嫁に行くかもしれないとはいえ、正妻の娘である私を罵倒するなんて、お父様がお許しになるわけがないでしょうっ!
そもそも、貴方が生まれたのは、正妻である私のお母様が、私を産んで下さった時に、産後の肥立ちが悪くて次の子を望めるか解らない、と産婆に言われたから、仕方なく貴方の母に子を産ませたのです。お父様は貴方の母にも貴方にもその事は伝えたはずよ!
万が一、私に何か有った時のために、という事で産んでもらったのです!
貴方の母は産まれた赤子と居られるのは僅かな時間だと知りながらも、貴方の母の実家の困窮を救うために、お父様に援助頂く代わりに貴方を産む事を納得したのです! 仮に貴方の母が産んだのが娘だったら、私が公爵家の跡取りだったのです! その当時は女性が跡取りになる事は法的に有り得ず、姉妹のみの場合婿を取る事になっていました。だから、貴方が男の子だったから跡取りに据えただけ。今は法が改正されて女にも跡取りの正当性が有る、と勉強したはずでしょうに。
私と殿下の婚約はその後のこと。貴方は私が殿下と婚約したから、跡取りにされた。だから私が殿下と婚姻しなくても跡取りから外れないとか思っているみたいだし、私を追い出せるとでも思っているみたいだけど、それも有り得ないの。お父様は私が婚約を解消した時点で、貴方を実母の元に行かせて私を跡取りにしようと考えているのよ」
「嘘だっ! そんなバカな!」
これには俺も驚いた。たとえ娘が悪女でもやはり公爵も人の親。娘を可愛がるということか。だが、それでは公爵家が悪女に乗っ取られるぞ、良いのか⁉︎ 公爵!
「バカなのは貴方です、ゾネス。あれ程日頃からお父様に、私を見下すのはやめろ、と注意されていたでしょうに。今日の騒ぎを聞いたら貴方を実母の元にやって、貴方の実母に報いてあげたい、というお父様の気持ちを押し殺して、貴方を罰する可能性が有りましてよ?」
なんでだよっ。父親というのは、そこまで愚かなのか? 大体ゾネスだって公爵の血の繋がった息子なのに、何故悪女を優先しようとするんだ!
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