どうしてこうなった。

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「貴様みたいな悪女の言う事など信じられるかっ!」  俺が思わず口を挟めば、ゾネスが驚いたように俺を見た。……なんだよ、ウィリティナを守る仲間なんだからこれくらいはするだろ? 「はぁ……」  俺の発言に、頭を軽く左右に振った悪女メルフィーは、俺の顔を見据えてきた。なんだ? 悪女の罠には簡単にはかからないぞ! 「私を悪女、と仰るからには、それ相応の証拠がございますわね? 言っておきますが、ウィリティナ様の発言だけで証拠とは言いませんわよ? その上で尋ねます。私を貶めるだけの証拠がございますのね?」 「証拠……」  は、無い。ウィリティナの証言だけ。 「無さそうですわね。それで? 証拠も無いのに公爵令嬢である私を男爵家の令息である貴方が、貶めた。その落とし前はどのようにお付けになられるの?」  グッ……  確かに身分的に見れば雲の上のような存在の悪女を貶めた事は、許されない。しかし悪女だぞ? 「や、やめて下さい! メルフィーさんはそうやって身分の事ばかり……」  ウィリティナは優しいな! 俺を庇ってくれる! どうだ! 皆! これでウィリティナが優しくてメルフィーが悪女だと解るだろ! ってアレ?  なんだかウィリティナを睨んでいる奴ばかりだ。何故。 「あら? 可笑しな事を仰るのね? ウィリティナ様。本日で学園は卒業。よって卒業式が終わった今は当然ながら皆が身分平等では有りませんのよ?  大体、学園に身分差が無いのは、身分の高い者に意見を述べられない、という意味合いや、教えて下さる教師方が私達、高位貴族や王族の皆様方より身分が低い方もいらっしゃるから、ですわ。身分差が有ったら教師の皆様方が学問を教えられないでは有りませんの。 ですから学園内身分差は問わないというだけですわ。つまり学園外では変わらずに身分差は有りますのよ? そして、本日卒業の私達。本来の身分差に戻るのは当然ではなくて?」  俺は、あっ……と思う。先程から悪女メルフィーを内心だけでなく口に出して罵倒していた。もう学園は卒業した。男爵家の三男である俺が一応公爵令嬢である悪女を罵倒……。ウチの男爵家が潰されてもおかしくない……。  その事実に背筋が冷たくなる。 「そんなっ。そんな可笑しいです! 身分が上だからって何を言ってもいいわけじゃない!」 「あら。それを男爵令嬢という身分の中に居るあなたが言うものではなくてよ? そう仰るのであれば、それこそ身分を捨ててから仰いなさいな。 あなた、男爵とはいえ貴族の令嬢として生まれて育てられておいて、身分を蔑ろにするなんて、この国の在り方を真っ向から否定しているのと同じよ? それを理解しての発言ですの?  つまり、国王陛下やあなたの隣にいるサーベル王太子殿下の存在意義も否定しているのと同じよ? それを理解した上での発言ですの?  私は公爵家に生まれた令嬢という身分が背負うものを幼い頃から文字通り叩き込まれてきてますのよ? それはゾネス。貴方も同じだと思っていましたが、忘れたのですか?」  悪女メルフィーは、ウィリティナの発言をぶった切る。ウィリティナは泣きそうな顔で悪女を睨む。  さすが悪女だ。ウィリティナの優しい言葉に何とも思わないなんて。それどころか、異母弟であるゾネスに脅しとも取れる発言をしている。なんて嫌な女だ。これだから悪女は。ウィリティナの天使のような優しい心を見習え!  いや、見習えるわけないな。所詮悪女だからな。俺の家が潰されたとしても、それは悪女の所為だからなっ。  俺が内心そう思っていると、ゾネスが俯き拳を震わせていた。
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