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謁見の間に入ると玉座に陛下が座っていらっしゃった。もう、いらしていたのか。年に一度しかお目にかかれない方だがその威圧感は紛れもなく陛下。怜悧で冷静な国王陛下。お若い頃は王子という身分を気にする事なく近衛ではなく王国騎士団に所属して剣を振るったという文にも武にも精通したお方。それなのに悪女メルフィーに誑かされたとは。悪女めっ。
「面をあげよ」
陛下の声が聞こえて顔を上げる。
「サーベル、そなた何を仕出かしたか理解しているだろうな」
声音は冷たく固い。その声だけで身体が縮み上がる。
「へ、陛下。恐れながら申し上げます」
「なんだ」
「恐れながら、メルフィーは」
「愚か者! メルフィー嬢を呼び捨てになどするな! もうお前達の婚約は解消されておる!」
陛下が怒りで声を荒げるとは……。ここまで悪女に毒されているのだろうか。
「し、失礼しました。メルフィー……嬢は、此処にいるウィリティナ嬢を虐めておりまして」
「証拠は」
陛下もやはり証拠を見せろ、と仰る。事実は明白なのに、何故信じてもらえない。
「有りません。ですが」
「無いのに何故メルフィー嬢だと決め付けた」
「わ、私が此処にいるウィリティナと愛し合っている事に嫉妬して」
「愚か者っ!」
陛下がまた声を荒げる。
「貴様は、いつから余より偉くなった」
低く静かな声が謁見の間に響き渡る。陛下の仰る意味が解らず、サーベル王太子殿下も答えられないようで無言になった。
「サーベル。お前は、いつから、この国の王である、余より偉くなった、と尋ねておる」
「い、いえ。私は陛下より偉くは……」
「では、何故、余自らが、公爵家に願い出た、余が、自ら選んだ、婚約者を蔑ろにしたのだ」
ゆっくりと紡がれた事実は、謁見の間の温度を急激に下げていく。
「そ、れは」
陛下自らあの悪女との婚約を公爵家へ頼んだと言うのであれば、悪女がどれほど悪女であっても、陛下がお認めになったきちんとした婚約者。その婚約者をサーベル王太子殿下が蔑ろにしたのであれば、それは陛下より偉くなった、と思われても仕方ない。
つまり、陛下への謀叛と考えられてもおかしくない。
俺を含めた此処にいる全員が、ようやくこのような状況に陥っている理由に気付き、戦慄した。
更に、悪女メルフィーがウィリティナを虐めていた客観的な証拠が無いという事は、憶測だけで陛下がお認めになった婚約者に傷を付けたわけで。
それはそのまま、陛下の見る目が無いという批判になる。陛下への大々的な批判だ。これは、もしかしたら陛下に対する不敬として罪に問われる……?
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