どうしてこうなった。

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「そもそも何故お忘れなのか、全くもって不思議なのですが。仮にメルフィー嬢がウィリティナ嬢を虐めていたとして、それがなんだと言うのです?」 「なっ。学園長とも在ろうお方が」  サーベル殿下の咎めには頷く。酷い言い分だ。 「学園は身分差無しと謳っていますが、本当にそうでしょうか。私が言うのも何ですが、殿下に些細な用件で話しかけるだけでも皆が殿下に対して臣下としての礼を取りますよ? これのどこが身分差無しです?」 「それは、私は王太子であって」 「つまり身分差ですよね?」  サーベル殿下含め、誰も否定出来ない。そうだ。あまりにも自然だったが、皆の殿下に対する礼は臣下のもの。身分差無しのものではない。礼一つとってもそこには身分があった。 「しかし、虐めは」 「もちろん、教育者として虐めを認めはしません。ですが、今の事を踏まえた上でお尋ねします。婚約者のいる男性及び女性に、婚約者以外の異性が距離も取らずに近づく事はどうです?」 「それは……」 「ウィリティナ嬢は、恐れながら王太子殿下との距離があまりにも近い学園生活を送っていた。それを咎めるメルフィー嬢の何がおかしいのです?」 「だが、それと虐めは」 「今、私は、殿下とウィリティナ嬢との距離感について、お尋ねしています。殿下もウィリティナ嬢も自分達の非を認めず、他人を蔑み貶める事だけはご立派ですね」  サーベル殿下は無言になってしまった。確かに、客観的に聞けば、殿下もウィリティナも悪い。俺とゾネスは婚約者は居ないがブルトンとゴレットは、婚約者が居る。確か2人も婚約者から距離感が近い、と注意を受けていた。ブルトンもゴレットも嫉妬など恥ずかしい、と婚約者達を退けていたが……。  第三者から見れば恥ずかしいのは、こちら側だった。ブルトンとゴレットを見れば、顔が青褪めている。婚約者達との関係はどうなったのか聞いていなかったが、尋ねるべきだろうか。 「おやおや。もう反論は終わりですか」 「学園長の疑問通り、私とウィリティナ嬢との距離が近かった事は認める。だが、私と彼女は相思相愛で」 「でしたら何故、先にメルフィー嬢との婚約を解消しなかったのです? その機会は山ほど有りました。その行動を一切起こさず、メルフィー嬢は陰で“王太子に捨てられた可哀想な令嬢”と蔑まれてもいた。挙げ句、公衆の面前で彼女を貶め傷付ける行為。よくそれでウィリティナ嬢は何も悪くないと言えますね。寧ろ殿下を誑かした悪女なのはウィリティナ嬢ですよ」 「そんな事はない! 私は誑かされていない!」 「ですから、王太子に捨てられた令嬢と噂されているメルフィー嬢、と皆は蔑み哀れんでいたわけです。この時点で貴方はウィリティナ嬢に誑かされた女に節操の無い王太子殿下だと思われている事に気付いて下さいよ。尤も、メルフィー嬢の王太子に捨てられた令嬢という噂も、女に節操の無い王太子殿下という噂も、消されましたけどね」 「消された?」  消したではなく? とサーベル殿下が言外に尋ねる。学園長はその質問を黙殺した。 「まぁ話を戻しますが。メルフィー嬢は学園内では貴方の婚約者でした。本当に何故、忘れられるのか不思議で仕方ないのですが。つまり、只の公爵令嬢とは訳が違いました」  学園長の意味深な発言に、サーベル殿下が考えるかのように首を捻る。やがて「あ」と声を上げた。 「もしや、私と同じ、だった?」 「ようやくお解りになられたようで何よりです。殿下と同じでしたよ」 「つまり……メルフィーは、私と同じように護衛が居た、と?」 「ええ。王太子の婚約者です。その身が狙われるのは過去にあった事例を見れば明らか。それ以降王太子の婚約者に選ばれた時点で、その令嬢には護衛が付くのは、慣習です。同時に王家から派遣される護衛は、監視役も意味する。何かおかしな言動があれば即刻陛下に報告されます。その上で、陛下はメルフィー嬢について、何と仰っておられましたか」  えっ。悪女は護衛兼監視が付いていた? そして、何かあれば陛下に報告がいく? と言う事はつまり?
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