第九章 イスラムの敵イーリヤ

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 いっそ夜中になれば霧は晴れる、だがまだ数時間は昼間が続いてしまう。ムーア曹長の部隊がキラク先任上級曹長と合流、相互に支援を行い前線を後退させることに成功した。 「聞こえるか、こちら『ベルリン』の自動車化狙撃大隊だ、貴軍の北西部の防備を受け持つ!」  不意に戦闘団司令部に通信を入れて来たベルリンとは、ラチン回廊に駐屯している第15独立親衛自動車化狙撃旅団の名誉連隊名称だ。その昔、ベルリンへの進出を行ったことから勲章と共に連隊名を与えられたことに由来する。 「ルワンダ軍戦闘司令マリー中佐がベルリンに感謝する! レオポルド中尉、公道を経由して時計回りで南西部へ行け!」 「サーイエッサ! 総員乗車だ、場所を移るぞ!」  ロマノフスキー准将がこういう時のために待機させていた部隊を出動させるように要請した。駐屯地から一キロちょっとしか離れていない、防衛に出るのはいたって普通の事。それとは無関係に駐屯地の酒保に匿名で米ドルの寄付があったらしい。  じりじりと後退しているうちに、次第に霧が晴れていく。確保している戦線がギザギザでいびつになっているのが明らかになった。突出して防衛しているのはビダ先任上級曹長とドラミニ上級曹長の二部隊で、互いの死角を補い守りを成立させていた。  正攻法でこうまで苦戦したのは物凄く久しぶりの事、マリー中佐は悔しそうに唇を噛んでいる。未だに砲撃が止まらずに、仮総司令部にまで何度も砲弾が飛んだ。それで倒壊することはないが、いつまでも押されているわけには行かない。
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