第九章 イスラムの敵イーリヤ

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 UH-60からAGM-114K ヘルファイア II対戦車ミサイルが放たれると、T-72があっという間に爆散した。対空兵器があると撃墜待ったなしなので、さっさとブラックホークが戦場を離れる。 「敵を包囲した! 蹂躙しろ!」  所属不明の戦闘部隊、それを大きく包囲したクァトロ部隊が射撃を集中させる。目視で、熱センサーで、或いは範囲を決めて絨毯爆撃のごとくグレネードをぶち込んでいく。 「本部の予備兵を投入する、俺について来い! レオポルド中尉、サイード中尉、残る敵を殲滅するぞ!」  装甲戦闘車中隊を押し出して、左右に本部の軽装甲中隊と高機動車両中隊が続く。迂回部隊は火力が低いようで、ストライカー装甲車を撃破できずに後退していく、そのうちそれが敗走に切り替わった。軽快なハンヴィーが背を向ける歩兵を次々と仕留めていくと、戦意を失い離散していった。 「総員に告げる、我々の勝利だ、鬨の声をあげろ!」  ――辛くも勝利した、といって良いのか? 助けがなくば危うかったが、それでも兵は満足に戦ってくれた。  太陽が完全に姿を消してしまう。仮総司令部の防衛に任務を切り替え、その日の晩を迎えると、国際放送で停戦処理が共同声明で発表された。 ◇  ロシア軍がラチン回廊だけでなく、アルツァフ共和国に駐留することが追加されて状況が変化した。アゼルバイジャンを後援していたトルコも停戦を飲み、これからは争いを起こさない方向で進めるようにと声明を出す。イランはそ知らぬふりを続けていた。
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