踏まれた足

1/1
前へ
/9ページ
次へ

踏まれた足

「うわっ。ひでぇ。青あざになってる」  靴下を脱ぐと、足の甲に内出血した跡がくっきり浮かび上がっていた。 「どうしたの?」  美羽が心配そうに覗き込む。 「ヒールの踵で思いっきり踏んづけられたんだよ」  思い出したらまた痛くなってきた。  俺は痛む足をさすりながら、美羽の顔を甘えたように見上げた。 「ヒールって?」  美羽の目尻が吊り上がる。 「だから、電車で」 「電車でなに? まさか変なことしたんじゃないでしょうね?」 「ばっ! してねぇよ! 俺がそんなことするはずねぇだろ?」 「ほんとにぃ?」  疑うような美羽の目元に、ほんの少し笑みが宿る。  これは、いつものじゃれ合いタイムだ。  美羽はよく、わざと怒ったフリをして甘えてくる。 「だって俺、美羽意外の女に興味ないもん」 「もう。すぐそう言って……」  尖らせた美羽の口を素早く塞ぐ。  すぐに甘い吐息が漏れ出してきた。  ほらね。  思った通りだ。  お互いの舌が行ったり来たりを繰り返したあと、どちらからともなく唇を離した。 「続きは飯のあとで」  チュッと音をさせてキスをすると、美羽ははにかみながら俯いた。  俺の彼女は、世界一可愛い。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加