魂ポイント

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「一目でいいから、孫の顔を見たかったわ……私の血が続くのを見たかったわ」 「あんたやっぱりね、もう少し男を立てなきゃだめよ。私みたいに突っ張って生きても、良いことなんて何もないのよ」  そう言ってしまった後、希海の顔から感情がすぅっと奥へ引っ込んでいくのを見た。娘は無言でベッド周りの整理をしたあと、そのまま病室から出て行った。ようやくモルヒネが効き始めた私は、意識が朦朧として引き止めるどころではなかった。  なぜ、あんなことを口走ったのだろう。自分の生き方に一抹の後悔があったのだろうか。 *   子どもの頃から不当に見下されるのが嫌で、自分を磨き続け、闘い続けてきた。昭和の真っただ中、中国地方の片田舎に生まれた女の私にとって、それは並大抵の努力では足りなかった。  近隣でトップクラスの高校へと進学するために勉強を続けていたら、叔父から「女は勉強なぞせんでええ」と言われた。大学進学のために地元を出ると言うと、祖母からは「おなごは嫁に出るまで親元に残るもんじゃ」と強く引き留められた。  それでもなんとか両親を説得して東京の大学へ進学が叶ったのは、末の二女という境遇もあったのだろう。長男は当然のように家を継ぎ、長女は見合いで地元の有力者の息子に嫁いだ。そのことで、我が家は「家を守る」という義務を果たしきっていたので、末娘がどこで何をしようとさしたる影響はなかったのだ。  私はその非情なシステムに憤慨しながらも、地縁血縁の縛りから逃れられる末っ子の立場を最大限に生かしたのだった。  でも、東京に出てきたら、次は「女の壁」が立ちふさがった。大学時代はまだよかったが、就職してからが地獄だった。
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