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「娘の希海さんは、あなたの選択次第では間に合いますので、まずは呼吸を整えて、落ち着いてください」
――この人、何を言ってんの? 選択って何なの……っていうか、私の考えていることが筒抜けになってない?
「そうです、末期は話すことのできない人がほとんどですからね。私はあなたの心の声を聴き、心に直接語りかけております」
男は、私が思い浮かべた疑問に間髪入れず答えた。そのすばやい反応からして、本当に私の心を読んでいるのかもしれない。
男は「失礼します」と言って、枕元に置いてあったパイプ椅子を広げて座った。鉄の足がギっと音を立てる。それはおそらく、数日前に希海が座っていた椅子だ。
――本当に、私の思考をすみずみまで読めるの?
心で問いかけると、今まで機械的な口調だった男は、人間らしく「ふふっ」と笑った。
「全部を読めるわけではないのですが、一対一ならほぼ100パーセント読めます。だから、あなたは私の質問に対して、答えを思い浮かべるだけでよいのです」
――答える? 質問って何なの? あなたが本当に死神なら、私の命を奪うのが役割でしょう。
「そのように疑問が多く芽生えるのは仕方ないでしょうね。詳しく説明します」
姿勢を変えたのか、男の座るパイプ椅子がまたギリリと音を立てて軋んだ。
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