魂ポイント

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「まず、あなたが58年の生涯で獲得できた魂ポイントは、合計130点でした。これは非常に優秀な成績です。人間界では上位1パーセントに入るくらいの高水準ですね。すばらしいです」  男は急に抑揚をつけて情感たっぷりにしゃべり始めた。まるでなにかのセールストークのようだった。 ――魂ポイント? 「簡単にいえば、『運命を(くつがえ)せば覆すほど、貯まるポイント』です。あらゆる生命体の生きる道筋である『運命』は、遺伝と生育環境でほぼ決定します。しかし、運命には柔軟性がないという欠陥がありまして、気候などの環境が変動すると種全体が絶滅してしまうんです。だから、管理局は『運命に(あらが)う力』を生命体に実装しました。すると、遺伝や環境が劣悪でも、その境遇から脱することのできる生命体が生まれるようになったのです。ただ、運命に抗う力はかなり個体差があることもわかっています。だから、獲得ポイントが100点を超えた優秀な魂は、ブレンドせずそのまま転生させて、魂全体の質を向上させるというルールになっているのです」 ――何だか難しいわ……。ブレンドって何? 「ブレンドとは、魂と魂を混ぜ合わせる作業工程です。ポイントが低い魂同士で混ぜ合わせ、切り分けて新たな魂として誕生させると、ごくまれに高ポイントを獲得できる魂が生まれるのです。今回、あなたの魂は優秀な成績をおさめたので、天に召されてもブレンドされず、そのまま新たな生命として生まれ変わることになります」 ――魂が優秀であることは、今の私に何かメリットがあるものなの? 「もちろん。魂ポイントは貯まった点数に応じて特典を受け取ることができます。当然、高得点の方は多くの特典が得られます」  だんだん話が胡散臭くなってきた。ポイントやら特典やら、いったい何の商品を売りつけるつもりなのだろうか。 「まあ……利用するもしないも自由ですがね。特典とは、平たくいえば、獲得ポイントの範囲内で最期の願いをいくつか叶えることができるのです。たとえば、娘さんに会いたいのなら、40ポイントで叶います。さらに、口を動かして娘さんにメッセージを伝えるには20ポイント、目を開けて娘さんの姿を見るには10ポイント上乗せすれば叶います」 ――へえ、ずいぶんいいサービスね。病気を治したい、って言ったら? 「残念ながらそれにはポイントが足りません。あなたの病気の進行度合いですと軽く1000ポイントは必要ですが、人間でそれだけのポイントを貯めた例は過去ほとんどありません」 ――まるでぼったくりね。 「死は、それくらい覆すのが難しい運命なんですよ。なお、今はあなたの思考に明瞭化(めいりょうか)フィルタをかけて、時間の流れも緩やかにしております。ゆっくりお考えいただいて結構ですが、限界はあるので気をつけてください」
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