魂ポイント

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 そういうと男はしばらく黙った。使う用語が特殊でわかりにくいが、私の意識をはっきりさせて、多少考える時間をくれたようだ。とはいえ、先ほど提示された特典とポイント使用量を考えると、たいした願いは叶いそうにない。  確かに希海には会いたい。でも、他に叶えるべき願いがあるかもしれない。 ――ねえ、他の願いごとのポイント使用量を聞いてもいい? 「もちろんです。制限時間はありますが、できるだけお答えしますよ」 ――じゃあこれはどう? 世界中の女性の地位を男性並に向上させてほしい。今後私みたいに厳しい人生を送る子が出てこないように。 「また壮大な願いですね。でも、それを叶えるには……ちょっと待ってください、現在計算中です……判明しました。およそ3億2560万6314ポイント必要です」 ――3億!? そんなの無理に決まってるじゃない。アンタ、女は永遠に男に従属しておけとでも言ってるわけ!? 「私は事実を申し上げたまでです。社会が変動するほどの願いにはそれだけコストがかかるのです。ただ、類似した願いのポイントは蓄積するシステムなので、その願いに投資するのは無意味なことではありません」 ――蓄積? 投資? どういう意味なの。もう少しわかりやすく言ってよ。 「つまりですね、同様の願いにポイントを投じた人が他にもいれば、点数が加算されていくんですよ。ちなみに、女性の地位向上の願いは、200年ほど前からポイントが投じられるようになり、今までに27億ポイントほど貯まっています。だから、残り3億ポイントでゴールが近い、とも言えます。200年間、強い魂を持つ人々が、社会変革を成し遂げるために投資してきたのです。私はそれをとても美しく思います。世代を超えて大勢が力を合わせ、運命に抗おうとするんですからね」  男はそう言って、またフフと人間っぽく笑った。  200年間、私と同じように女性の地位向上を願った人が大勢いた……。男の話が本当かウソかもわからないのに、胸がじわりと熱くなった。 ――家族や親族に抗って、就職先に抗って、頑迷な男たちに抗ってきた私の人生は無駄じゃなかったのね。 「無駄じゃなかったかどうか評価を下すことはできませんが、その願いに貴重な魂ポイントが投じられてきたのは事実ですね」  男が足を組みなおして、また椅子がギギっと音を立てた。そこで初めて、ベッドサイドモニターが、「ピッ……、ピッ……」と先ほどより間隔を大きく空けて機械音を鳴らしていることに気づいた。時間がゆっくり流れているのか、それともバイタルサインが途切れかけているのか、どちらかはわからなかった。 ――最後にもう一つだけ質問してもいい? 「どうぞ」
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