魂ポイント

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――私が希海の……娘が産む子どもに生まれ変わりたい、といったら何ポイントかかるの?  体感で10秒ほど、男は返事をしなかった。足を組み直すこともせず、存在が消えてしまったように黙っていた。 ――あの? 聞いてますか。 「聞いていますよ。その願いには、30ポイント必要です」  もったいぶった割に、ずいぶんリーズナブルだった。 ――思っていたより安いわね。 「安いという表現が正しいとは思いません。なぜなら、生まれ変わり先を指定することには意味がないからです」 ――どういうこと? 「生まれ変わる際、すべての生命体の魂は、完全に漂白された状態になります。要するに、あなたの記憶や個性は一切なくなって、他の魂とまったく区別がつかなくなるのです。あなたは魂ポイントが高いので魂そのものは変化しませんがね……。たとえるならば、工場で作られていて品質が安定した製品を買うときに、わざわざ製造ナンバーを指定するようなものでしょうか。とにかく自己満足でしかないんですよ」  男は冷たく言い放ち、椅子から立ち上がってふたたび私の耳元に顔を近づけてきた。 「そろそろ時間です。ポイントを利用するかしないか、利用するならどのような特典を得るのか、決断してください」  男の低い声が鼓膜を揺さぶる。  まぶたは相変わらず上げることができず、闇は闇のままだった。そして、先ほどまでふわふわと浮くようだった身体に、ずっしりと倦怠感が渦巻き、大きな鉄の重りがおなかの上に載っているような苦しみが襲ってきた。  どうやら、男がせき止めていた「死」が、ふたたび私に覆いかぶさってきたようだ。 ――決めたわ。100ポイントを女性の地位向上に投資して、30ポイントで希海の子どもに生まれ変わる。 「そんな願いでいいんですか? 娘さんに会うという願いを叶えなくても」 ――いい。希海を傷つけたのは私の未熟さのせいよ。彼女に謝るより、大きな願いに投資することで償いたい。そして、なによりも、彼女の子どもとして生まれて、女性が暗闇の時代から完全に抜け出すところを見てみたい。 「娘さんが子どもをもうけるとは限りませんよ。その場合、生まれ変わりの願いは無効になりますが」 ――それでもいい。アンタ死神でしょ。もうさっさと私を連れていきなさいよ。  私は半ばやけくそになって、心の中で叫んだ。  そのとき、廊下を全速力で走るスリッパの音が近づいてきた。その音はやがて私の病室に飛び込んだ。
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