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「ただいま」
リビングの明かりはついてるけど誰もいない。ひとまず自分の部屋にいこうとしたとき、ふと机の上に紙のような物が置いてあるのに気がついた。
"お疲れさま。生徒会長もこれで引退ね。あなたの好きな卵スープがあるので寝る前にでもどうですか?今夜はゆっくり休んでね"
それは明らかに母さんの字だった。母さんが"娘"に対する愛情がその文字から伝わってくる。いつもと変わらない母さんに私の心は少しキュッとなった。
「愛されてるんだな」
その手紙を手に取り部屋へ持っていく。ベッドに寝そべるとぬいぐるみを手繰り寄せ抱きかかえた。やっぱり自分の部屋は落ち着く。
花器に生けられる必要もなく、ただ太陽の光を浴びて葉を伸ばすようにそれはとても自然体だった。たまにはこんな日があってもいいな。
でもなんでだろう、あの手紙を読み返すと涙が枕に落ちるーー
『父さんなんでいないの?』
『遠い遠いところにいるからよ』
『母さんは寂しくないの?』
『大丈夫よ、だって神様は大切な宝物をくれたのだから。そう、それはあなたたちーー』
ーー翌日
嫌な夢を見たものだ。それのせいとは言わないが、とりわけ今日は機嫌が悪い。しかしそんなことはお構いなしに学校のチャイムは鳴り、私は女子高生というブランド品を持て余しているただの未成年になった。
どうせ私なんて誰も見ていない、そう思うのはこの年代特有のものだろうか。
“キーンコーンカーンコーン”
次の授業、そのまた次の授業を終え、ようやく昼休みになった。ずっと座っているのも疲れるし、これといって授業の記憶もない。カバンを漁っていたとき、ちょうどたけちゃんが隣の席にきてくれた。
「もうお腹ペコペコだよ。今日のおかずはなにかな」
「あ、たけちゃん、これあげるよ」
そういって私は卵焼きを渡した。いつ見ても美味しそうに食べる彼女に小動物のそれを感じる。私はご飯を食べるというより見ることに幸福を覚えたのかもしれない。
「そうだ、今日の放課後空いてる?新しいカフェ見つけたの!」
「ごめんね、放課後先生のところいかないといけないんだ。また今度いこう」
一瞬ガッカリした表情を見せながらも、笑顔で話を続ける。卒業まで数ヶ月だし、少しでも思い出を作りたい。ブランドを着こなせるようになれば尚良し。
そう思った矢先、制服のボタンがぽとんっとスカートの上に落ちた。着こなす前にまず直さないとね。
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