やさしい闇と宇宙船

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やさしい闇と宇宙船

暗い部屋の中、布団にふわっと包まれる。 暖かい闇、真っ暗な闇、目を開けても何も見えない。 「準備はいいか?よければ、出発するぞ」 お父さんの声に、5歳だった私は、その真っ暗闇の中でワクワクと心を踊らせる。二人で、一つの布団をすっぽりとかぶると、狭くて暑くて息苦しい。そして真っ暗。でも、これが宇宙船ゴッコの醍醐味だった。 顔の前に持ってきた、自分の手の形もわからないほどの闇。 でも、そこには私の手が必ずある。 もう片方の手で確かめる。 ……良かった、ちゃんとある。 そんな不安も織り交ぜてワクワク感は膨らんでいく。 真っ暗闇の中では、よくいろんなものが消える。感覚が、常識が、過去が、保育園に行っていた小さな私が。そして、いろんな物が出現する。 そこには宇宙飛行士の私がいた。そしてここは宇宙船の中。宇宙服を着たお父さんと私が、操縦席に座っている(本当は寝そべってるけど)。 「ちゃんと、宇宙食は持ってきたか?」 お父さんが換気のため、一度布団の、じゃなかった、宇宙船の入り口を開けて聞いてきた。 「うん。大丈夫」 宇宙食を用意するのは私の役目。 「今日は、チョコレートとメロンのアイスクリーム。あと、ラムネ」 「おいおい、お菓子ばっかりじゃん」 「あ、じゃあ、お父さんの好きなビールも持っていくよ」 「お、いいねー。宇宙でビール」 「私シュワシュワジュース持っていく」 「まだ炭酸はダメーー」 「お父さんだけずるい。お姉さんになったら飲んでいいって言ったじゃん。私、もうすぐ小学生だから、いいんだよ」 「あー、まー、じゃー、今日は特別だ。宇宙で乾杯するか」 「本当にもう。いつまでも子供じゃないんだからね」 「まだまだ、バブちゃんだろ」 「バブちゃんじゃない」 少し間があった。 「……そうだな。もう宇宙船も、こんなにキチキチになっちゃったしな。この前までは余裕のスペースがいっぱいあったのに。そろそろ、これも終わりかな」 終わりって、どういう事だろう。私は分からなくて 「じゃあ、私もう少し大きくなったら、隣に私の布団くっつけて宇宙船合体させるから」って答えた。 「宇宙船を合体させるか。フフ、よし、今度はそうしよう」 お父さんはそう言うと、すこし笑っていた様な気がした。
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