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この初夏、お父さんはお母さんのところへ旅立った。
67歳。早すぎるよ。
きっと、今は宇宙船に乗っている。もしかしたら、遠い、遠ーーい、お母さんのところに、やっとたどり着いたかもしれない。
お父さんは亡くなる前、謝っていた。
「ごめんな、あまり面倒みてあげられなくて」
「何、言ってんの」
私は、そんな弱気な事をいうお父さんが嫌で、ちょっとムキになって返した。
「何も残せてやれなくて」
「だから、何いってんのよ」
「……うん」
いろんな記憶がめぐる。いろんな事を言いたい。
だけど、言葉が見つからず。
「……いっぱいもらったから。大事なものは、いっぱいもらったから」
とだけ返した。
「うん」
「だから、もう何もいらない。だから……」
息を吐く、声が出なかった。
「……うん。大丈夫だ。あかりはもうバブちゃんじゃない」
「バカ」
お父さんが力なく笑った。
私は、鼻を啜って息を絞り出した。
「……何もいらない。それに心配しなくていいよ」
「……うん」
「……でも」
「……」
「だけど……だから……」
「……」
「もっと……」
「……」
…… 一緒にいてよ。
と言う言葉は、呑み込んだ。
ギュと胸の奥に沈める。
心配させたく無かった。
代わりに、お父さんの手を握る。
小さくなったけど、相変わらずゴツゴツとして、豆の跡があった。
今度は私が握ってあげる。
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