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「――――――吉永さんは、専門学校時代の先輩です。半月くらい前に偶然、お店に来店されたんです、彼女と。それで、キッチンにいた僕に気付いて声をかけてくれて。近くに自分の働いてるお店の支店があるから、休憩時間にでもおいでって。僕も本当に久しぶりに会ったので懐かしくて・・・。それでその日のうちにお店に行ってみたら、新宿にある洋菓子屋さんの支店だったんですよね。―――――あ、吉永先輩はその本店のパティシエで、彼女の方が働いてる支店に視察を兼ねて寄ったらしくて。――――それでいろいろ話しているうちに、バレンタインの話題になって・・・。僕、料理はある程度できますけど、お菓子作りは簡単なものしかできないから先輩に、大切な人に美味しいチョコを作って渡したいって相談したんです。ちょっと驚いてたけど、それでも空いてる時間があったらいつでも店に来ればいい、教えてやるよって言ってくれて・・・」 「・・・え・・、じゃあ、ここずっと会ってたって言うのは・・・チョコ作りの・・ため?」 「はい。―――――すっごく美味しいのを作って祥久さんにあげたかったんです。だから当日まで秘密にして驚かせたくて、外で人に会ってること、言えなかったんです」 「こないだの夜は・・・?」 「祥久さんがいなかった夜ですか?――――――あの日は先輩のお店で教えてもらってからご飯食べに行って・・・。祥久さんが近くのホテルにいるの知ってたし、もしかして帰りに会えるかな・・なんて思ってあの辺歩いてたんですけど・・・。僕が気づかないで祥久さんに見られて誤解させちゃうなんて・・・」 俺は・・・本当にバカだな。――――――こんなに俺を想ってくれていたというのに、何て理不尽な態度を取ってしまったんだろう。謝って済まされる事ではないけれど、こうなったらもう地べたに這い蹲ってでも謝り倒そう。何度でも・・・いや、一生かけてだっていい。霞が俺のそばに居続けてくれるなら、どんなことをしてでも引き留めよう・・・。 そう思い霞の手を取り、「――ごめ・・」と言いかけた瞬間、ポケットの中の携帯が着信を知らせる。少しの間気付かないふりをしていた俺に、霞の方が「電話、鳴ってます」と苦笑気味に通話を促した。 舌打ちしたい気持ちを必死に抑え、多少苛立ちを籠めた声でその電話に応答すると・・・。 『あ、椚さん?俺、さっきの吉永です。メールって言われたんスけど、俺、ちまちま打つの苦手なんで電話にしました。―――えーと・・・、何か勘違いしてたら、北林気の毒かなって思って・・・』 彼はどうやら俺と霞の関係を感じ取ったらしく、自分のせいで何かまずい事になっているのでは・・と心配して連絡した様子が伝わってきた。無関係だった彼にまで気を遣わせてしまうことになり・・・俺はどれだけの人間に嫌な思いをさせてしまったんだと、自己嫌悪に深く陥るが、ふと思う。―――――”今、俺が取るべき行動はもしかしたら・・・”と。
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