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俺を試すように、けれど明らかに面白がった表情で、霞が視線を向け意地悪く笑った。 滅多に・・というか、俺には見せた事のなかった表情にまた少し衝撃を受けながら、それでも戸惑いの混じる情けない声で俺は答える。 「―――――。一昨日の晩、新宿で・・・吉永、君?と、会ってただろう?・・・それがちょっと・・というか、かなり仲良さそうな雰囲気だったから、その・・・」 「―――祥久さんのいない夜に、僕が浮気でもしてるんじゃないか・・・、と?」 「・・・いや・・・まぁ・・・簡潔に言うと、そうだね」 「・・・そうですか。―――――――――――――――祥久さん?」 少し声のトーンが落ち込んだ様なものになり、俺を見ていた霞の顔が俯けられ見えなくなった。何を告げられるのだろうと身構えた俺は、緊張のあまり口に溜まった唾をうまく飲み込むことができず、喉を通り過ぎる時やけに大きな音が鳴った。 「―――――ハイ・・・」―――意を決して発した言葉はカタコトのようで。 けれど、次いで耳に届いた霞の言葉に、俺は一瞬耳を疑った。 「――――――ごめんなさい」 「――――――――――――は・・・?・・・・えぇっ??」 疑ったのは俺で、酷い事をしたのも俺。謝らなければならないのは間違いなく俺の方なのに、どうしてか霞は、俯いたまま小さな声で俺に”ごめんなさい”と言った。 一体なぜこんな流れになったのか、少し前の自分たちの会話を思い返しても、どうしても霞の謝罪には繋がらない。俺は狼狽え困惑しこの状況に相応しい言葉が出てこなかった。 僅かに顔を上げ、窺うように俺を視線だけで見上げた霞は、苦しげに微笑む。 「祥久さんに疑われるような事をしたのは僕だから・・・。できればあと何日か秘密にしておきたかったんだけど・・・、火傷もしちゃったし、もう隠しきれないから言いますね」 俺はただ霞の言葉の続きを、息を飲んで待つしかできなかった。頭の中はいろんな想像でぐちゃぐちゃと混乱し、良い事なのか悪い事なのかわからない告白に、今にも脳内が爆発してしまいそうだった。 霞の僅かに開いていた唇が一度閉じられ、何かを決意したように再び開けられる。
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