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吉永との電話を濁すように終え、霞にとりあえず自宅に帰ろうと告げ、返事も聞かず車を発進させる。 霞は不思議そうに俺を見ていたが、もう怒りの雰囲気も、悲しむ様子も、涙の跡も消えている。それだけで俺の心は軽くなる。――――もちろん、罪の意識は少しも消えていないのだが・・・。 自宅に着き、リビングのラグにちょこんと座る霞の正面に跪き、痛々しげに包帯の巻かれた手首を持ち上げて、そこにそっとくちづける。 「――――痛かっただろう?・・・俺のせい・・だよな」 「ふふっ・・、もう平気ですって。確かに、祥久さんのこと考えてぼんやりはしてました。けど、酷い事されたとか、悲しかったとか、そういうネガティブな感情でぼんやりしてたわけじゃなくて・・・。あんなことして、祥久さんきっと落ち込んでるんだろうなとか、もっと話聞いてあげればよかったなとか、・・・そういうこと考えながら作業してたら、沸かしてたお湯の鍋を掴み損ねてしまって、慌てて体を捻ったものの丁度落下し始めた鍋が手首に当たってしまったんです。失敗しちゃいました」 どこまでも、どんな状況になっても、霞は俺を想って過ごしているというのがひしひしと伝わってくる。それなのに俺ときたら・・・。ため息を吐きたい衝動に駆られたが、いつまでもジメジメしているわけにはいかない。それに、改めて霞の俺への気持ちの大きさを知り、跳び上がりたいほど嬉しかった。 俺は、気持ちを切り替えるように自分の頬をパンッと小気味良い音を立て叩き、目を瞠り凝視している霞に笑みを向ける。 「――――火傷の痕が見えなくなるまで、食事の用意も掃除も洗濯も、全て俺がやる。霞の身の回りの世話も何もかも、全部、俺にやらせてくれ。―――――あと、明日からの本社勤務、俺がきっちり送り迎えをする」 「え・・・?そんなことしてもらわなくても、日常生活に支障ないんですよ、この火傷・・」 「うん、知ってる。――――それでも、俺がやる。・・・いや、やらせてほしい」 「そんな・・・。そ、それに、送り迎えだなんて、一社員でしかない僕と常務である祥久さんが一緒に出勤なんて、そんなの絶対おかしいですよ??」 焦る霞に俺は笑みを向け、「気にしなくていいよ」と笑って、頭の中では次なる計画を練り始めていた。
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