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プロローグ:後輩が鶴だった件
「私、茶谷さんのこと・・好きなんだと思います」
その日、茶谷吾郎は会社の後輩である赤堀結に告白された。折り入って話があると言われ、てっきり会社を辞めたいと相談されるつもりでいたら、これだ。
「いや、お前さ・・」
茶谷は溜息まじりで飲食店のカウンター席、隣に座る赤堀を覗き見る。
「『鶴の恩返し』には、若い男性が主人公で、鶴が奥さんになるバージョンもあります」
赤堀は、茶谷が2年前に満員電車の車内で助けた就活生だったことを告白し、茶谷に恩返しに来た鶴だと言う。
「鶴から離れろ」
茶谷は、電車内のトラブルから自分を辿り、職場まで追いかけて来たのかと、その執念に驚いた。
「あの日・・助けてくれたのが茶谷さんで、本当に良かったです。仕事している時は、茶谷さんがいてくれて本当に良かったって思うし、今は・・隣にいてくれて、嬉しいです」
赤堀は堂々と自分の想いを茶谷に伝えた。
茶谷はそれを終始複雑な顔で聞いていた。なぜなら、茶谷は社内恋愛反対主義者でもあり、赤堀を今後の戦力として重要な社員として見ていたからだ。社員同士で付き合って別れるようなことになれば、間違いなく仕事がやりづらくなる。
「社内はさ・・何かとダメだろ」
茶谷はそう言って断ろうとした。そもそも、茶谷には交際中の女性がいる。そして、赤堀もそれを知っていて、別れた方が良いと言って来たのだ。
「でも、諦めません。私・・」
赤堀が全く迷いもなく言い切るので、茶谷の血の気が引く。諦めないとは、どういうことなのか。赤堀の言動は、茶谷には理解ができなかった。
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