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 店を片付け、怜と別れてから家路を向かう。いつもよりも早く片付けも終わってしまったし、仕込みの量も減らした。もしかしたら明日はもっと少なくなるかもしれない。そしていつかなくなるのでは――それを考えると怖かった。実際、ここ数日は赤字が続いていて、もっと続くようなら支払いにも困ってきてしまうだろう。 どうしようかな、なんて考えながら家に辿り着くと、お疲れさん、という声が響いて、侑里は顔を上げた。 「景」 「これ、よかったら」  近づくと、景は侑里にビニール袋を手渡した。中には缶ビールが数本入っている。 「ああ……ありがとう」 「飲んで忘れて、しっかり休めよ」  侑里の顔を見て笑うと、景はそのまま侑里とすれ違うように歩き出した。  このまま帰ってしまうのか……と侑里は少し残念に思いながら景を見つめる。もっと一緒にいて欲しい、帰したくない――侑里の唇は自然と動いてしまっていた。 「け……景! 一緒に……飲まないか? これ……この間貰ったのもまだ残ってて、一人じゃ、飲みきれないっていうか……」  まっすぐに景を見やると、振り返った景が一瞬驚いた顔をして、けれどすぐに微笑んで頷いた。 「そんな真っ赤になるまで力まなくても、軽く誘ってくれていいんだよ、俺なんて」  戻ってきた景が侑里の頭を大きな手で撫でる。その手が心地よくて、でも同時に鼓動が走って落ち着かなくて、侑里は、別に、と返した。 「全然、力んでなんてないし」  侑里がうそぶくと、景が、そうですか、と微笑んだ。  家にあるもので適当につまみを作り、二人で乾杯をしてから、二時間ほど経っていた。ビールの缶も全て空になって、今は家にあったワインを開けている。侑里にしては、今日はしたたか飲みすぎている。 「だからあ、おれはね、平和に店の経営ができればあ、それでいいの。わかる?」  グラスを景に差し出しながら侑里は言った。この言葉を何回言ったか分からないが、そんなことはどうでもいい。 「わかる、わかる。で、客の笑顔が見れればそれでいいんだろ?」  景は侑里のグラスにワインを注ぎながら頷いた。その顔も侑里にはもうぼんやりとしている。 「つーかさ、なんなの? あの評価のシステムも、それに左右されて店選ぶ方も。自分のセンスと舌で選ぶもんじゃねえの?」  バカじゃねえの、と侑里はグラスを呷って空にする。テーブルにそれを乱暴に置こうとすと、隣から手が伸びて優しくグラスを取られた。 「そんなふうに置いたら割れる」 「おう……」  ありがと、と言うと景は、それは侑里がすごいんだよ、と言った。なんのことか分からず侑里が首を傾げる。 「誰もが上級のセンスと舌を持っているわけじゃない。だから他人のそれに頼るんじゃないかな」 「けど、あの評価は嫌がらせだ。そんなの信用するなよって……つーか嫌がらせなんかするなって」  正面から来いってんだ、と侑里は不貞腐れたようにソファに沈み込む。隣で景が笑う。 「相変わらずそういうとこは男らしいな。みんながみんな、侑里みたいに自信なんかないんだよ。最悪の結果が怖いから、例え嫌がらせのような評価だと分かっててもそこは回避する――けど、俺は侑里の店は最高だって分かってるから」  景がそっと侑里の手を取り指先に口付ける。その様子を侑里はぼんやりと見つめた。温かい唇が離れていくと、なんだか寂しくて、侑里は自分から景の唇を求めるようにキスをした。熱い舌が重なって絡まる。その心地よさに侑里は目を閉じた。キスは更に深くなるが、突然離されて侑里は不満に目を開ける。 「もっと欲しい? 来るか?」  景が不遜な笑みを浮かべ、自分の膝をとん、と叩いた。なんだそれ、とむっとしたが、侑里はそっと体を動かした。景の脚をまたぎソファに膝立ちになると、侑里は景の肩に両腕を廻した。
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