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「……やっぱりありえない……」  いくら酔っていたとはいえ、あれはない。ちょっとキスしたくなるくらいなら、まあ、許容範囲内だろう。そういう酒癖を持っている人もいるくらいだ。しかしだ。いくら誘われたからとはいえ、自ら上に乗った挙句一人でして、しかもできないと泣くなどという失態――情けなくてむしろ今泣きたい。 「……さん、侑里さんってばー」  怜の自分を呼ぶ声に、侑里はびくりと体を震わせた。 「な、何?」  いつの間にか傍にいた怜が怪訝な顔をして伝票を手渡す。 「フレンチトースト、オレンジパフェお願いします」 「あ、うん、了解」  怜に答えて侑里はぼんやりとしていた頭を仕事に戻し、手を動かし始めた。 「あと侑里さん、どうして最近オレのこと避けてんの?」 「え、いや……なんだろう……ちょっと罪悪感っていうか……」  景が想っている相手だと思ったらなんだか顔を合わせずらかった。それに対し、カウンターの中でコーヒーを淹れはじめた怜は、なにそれ、と呆れた声を出す。 「ていうか、最近宮咲さんとも話してないし。まあ、それはオレとしては大歓迎なんですけど、他のお客さんの前ではイケメンオーナーのオーラ出してくださいね」 「なんだよ、オーラって」  そう言って侑里が笑うと、その顔です、と怜が微笑む。 「その顔で接客すれば絶対女性客増えますって。少ないお客さんの満足度上げて、店の評価回復して行こうっていったのは侑里さんなんだからしっかりしてくださいよ」  怜に言われ、侑里は頷いて作業を続ける。  それを見た怜は、淹れたコーヒーをトレイに乗せてフロアへと戻っていった。  今は、少しずつでもいいから努力して店の評判の回復をしなくてはいけないのは分かっている。けれど最近の侑里は仕事どころではないのだ。  あの日の翌朝、やっぱり景は家に居なくて、またどうして自分を抱いたりしたのか聞けなかった。多分、慰めだとは思うのだが、それにしては随分色々醜態を晒してしまった。それに…… 「景だってちょっと乗り気だった……」  膝に乗れと挑発したのも、ひとりエッチを提案したのも景だったはずだ。だから、もしかしたら、という気持ちと、でもまさかという思いが、いつまでも戦っていて侑里は毎日ため息を吐いては怜に叱られていた。抱いてくれるのは、少しでもおれが好きだからか、なんて考えたら、ドキドキして何も考えられなくなってしまうのだ。 「しっかりしなきゃ」  それでも店も今が頑張り時だ。侑里は気持ちを切り替えるようにエプロンのひもを結びなおした。
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