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「ねぇ、覚えてる?」
あなたの丸っこい頭を撫でながら聞いてみる。
膝枕をして、
目を合わせて、
あなたの瞳はとても愛に満ちている。
ああ、とても幸せだ。
なのに、なのに、どうしてこんなに悲しいんだろう?
「例え誰が何と言おうと、僕は君が好きだよ。だから、僕と生きてください。」
柔らかい風が、髪を揺らす春の日。
私の前で泣きそうな顔で笑いながら、あなたはそう言った。こんな私で良いのかと、思ったけれど私はあなたの手をとった。
「はい。」
その時私は決めたのだ。今後の人生はあなたと一緒に生きようと。
それからの日々はまるで夢のようだった。
幸せ過ぎて怖いと言えば、あなたは小指を私に差し出した。小指を絡めて約束する。
「永遠に君を愛するよ。」
私たちは永遠を誓う。
けれど私は知ってるの。
永遠なんてありえない。
なんて悲しいんだろう。
永遠を誓えるあなたの愛は、本当の愛じゃない。
そうだ。私を好きになる人なんているわけがない。
だって、私は私で私以外の何者にもなれないんだから。
時折溢れだす自己嫌悪に身を震わせていれば、あなたは微笑みながら私のことを抱きしめてくれた。
このままじゃダメって、思ったの。あなただけに負担をかけちゃいけないと思ったのに。
「君のことは僕が守るよ。」
外は怖いことだらけだから。
あなたはそう言って部屋のドアを閉めた。
あなたのそれは愛じゃない。
それなのにどうしてこんなことするの?
あなたなしじゃ生きられない。既に手遅れだけど。
ドアを閉める度に、あなたが謝るから、何も言えなかった。
あなたは花を私に買ってきてくれた。
私がきれいだと言えば、あなたもきれいだと言った。
枯れた花をあなたが捨てた。
あんなにきれいだって言ってたのに。
いつも笑ってるあなたの顔に影が過るのを知っているの。
こんな私と一緒にいるの、もう疲れちゃったんだよね。
でもね、ごめんね。ごめんなさい。
私、今後の人生は全部、あなたと一緒って決めちゃったの。
だけどこんな私からあなたを解放してあげたいの。
どうしたらそれを叶えられるか、一生懸命考えた。
それで分かっちゃったんだ。
部屋に入ってきたあなたに、笑いかけて、そっと近づくの。
逃げて、逃げないで。相反する想いを抱きながら。
私が持っていた銀色も気にせずに、あなたは私をギュッと抱きしめた。
それは、それは、嬉しそうに。
私は驚いてしまう。少しくらい濡れても気にならないくらいに。
だんだん私を抱きしめる力が弱くなって、あなたが私にもたれかかってくる。
「君が好きだよ。」
胸の中が熱くなる。とっても嬉しかった。
もたれかかってくるあなたを頑張って受け止めて、あなたの頭を膝にのせる。
あなたはとても嬉しそうで、愛に満ちた目で私を見てくる。
それがとても嬉しいのに、とても満たされてるのに。
なんでこんなに悲しいんだろう。
「ねえ、覚えてる?」
あなたが私に一緒に生きて欲しいと言った時のこと。
一緒に永遠の愛を誓ったこと。
私を守ると言ってくれた時のこと。
ドアを閉めた時のこと。
枯れた花を捨てた時のこと。
疲れた顔をしていた時のこと。
あなたのそれは愛じゃない。愛じゃないはずなの。
私のことを好きな人なんているわけない。いるわけないの。
なのに
「どうして?」
あなたは答えない。
ただ嬉しそうに微笑んで、愛に満ちた目で私を見ているだけ。
温かかった液体が広がってどんどん熱を失っていく。
私の手からもあなたの胸からも零れた銀色が冷たくなりつつある赤の中で鈍く光っていた。
「どうして?」
あなたはこんな私から逃げてくれれば良かったのに。
「どうして?」
嬉しそうに私を抱きしめたの?
「どうして?」
返事はない。
ただひとつ確かなことは、
私があなたと一緒だと決めていたことだけ。
私は最後にもう一度呟いた。
「どうして?」
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